輪の外にいて

北村周一

母の名を尋ねられたる夕まぐれ
 盆の踊りの輪の外にいて

親しげに母の名を呼ぶひとのあり
 輪島朝市通りをゆけば

母の名を通りすがりにきかれおり
 真夏のひかり鈍きふるさと

七月のキリコ大祭の夜にして
 杳いきおくにわれをうしなう

八月や能登に口能登あることも
 法師つくつく奥能登へ来よ

艶やかなる漆のいろの重なりも
 匂いもともにふるさと能登の

半島の凸なるところわが生れし
 能登はやさしきひとごろしとも

震度7かかる数字が揺れのこる
 奥能登はいま雪雲の下

千年の夢から醒めて隆起せし
 海岸線にゴジラあらわる

元日や右に左に揺れながら
 待てよどなたかの足音がする

小正月おとこは無口の馬鹿でいいと
 テレビカメラ越しにあなた呟く

半島のどこがわるいというのだろ 
 正月四日のBSフジで

真新しき防災服に身を固め
 ならぶ面々ナチスの如し

あのナチスの手口を真似てひっそりと
 緊急事態条項が待つ

逃げ足のはやい鬼さん忽ちに
 ケンケン跳びに姿くらます

逃げ場所はどこにあるのか志賀町の
 原電はいまどうなってるの?

輪島生まれ清水育ちとしるしおく
 わが身上に裏おもてなし