健康オタクというわけではないが、心身のバランスを整えるために愛しているものがいくつかある。食事や睡眠、運動に気を配るのは当然のことだが、私がなにより好きなのは、ちょっとしたエンターテインメント感覚で体を活性化できるアクティビティなのである。一つはサウナ。もう一つは足つぼマッサージである。サウナについてはまた別の機会にと思うが、今日は足つぼマッサージについて書こうと思う。
私が足つぼに出会ったのは、中学生のころだ。修学旅行で京都に行った折、お土産屋さんをのぞいていたら和紙の小冊子が置かれているのに気づいた。正式なタイトルは失念したが、「押して健康、足のツボ」みたいな墨文字が踊っていたと思う、パラパラとめくると、足の裏には全身の各部所に対応して繋がる神経がある、というようなことが書かれている。足の親指は目や頭の疲れに効く、土踏まずのあたりは腎臓など、内臓関係を刺激することができる、足の小指の下は肩こりに効く、といったようなことが書いてあった。足の裏をよく揉み解すだけで全身活性化できるなんて面白いなと思った。当然その小冊子は買って帰った。友達は匂い袋や、西陣織の小銭入れなど、可愛らしいものをお土産にしているのに、私は足つぼの本を求めたことで、随分話のネタにされた。怪しいとか、なんとか、やいのやいの言われたが、とにかく私は足の裏を押して、体にどんな効果があるかを試してみたかったのだ。
当時はまだ子供だったから、体もそんなに疲れたりしなかった。だから足裏を押してもどのくらい効いているのかあまり実感がわかなかった。だが、足ツボはいいぞ、という情報だけが脳裏にインプットされて幾星霜。立派に疲れを感じる大人になってから、ふと足裏のことを思い出した。そうだ、足つぼ行こう!!土日に聖歌隊のアルバイトをしていた時、あまりに長い待ち時間を持て余して有楽町のあたりを彷徨っていたら、オープンしたばかりの台湾式足つぼのお店を見つけた。とても居心地の良い店だった。照明は薄暗く、お香が焚いてある。家具はオリエンタルムード満載、おまけに施術してくださる方は台湾で修行したようなことを言っていたはずで、風貌も話し方もどこか外国人風だと思った。そんなシチュエーションの全てが、海外旅行に行ったような気分を盛り上げてくれる。良い香りのする足湯で丁寧に足をあたため、洗ってもらい、ふとももの付け根まで空気圧をかけるマッサージャーで足をほぐしたのち、ついに足裏を人の手で揉み解してもらう。施術担当者が言った。「台湾式足つぼ、やったことないデスネ?痛くて泣いてもシラナイデスヨ」
足裏って押されると泣くほど痛いの?…と思っていたが、いざ始まると本当に痛い。「ココは腎臓です」「ココは首です」「ココは肩です」と、痛さに悶絶するたびに、それがどの場所と対応しているか教えてくれる。ところが、痛さの向こう側に気持ちよさ、体があたたまってほぐれていくような感覚があらわれるのだ。泣くほどは痛くないと思ったが、「痛さに強いデスネ」と言われて、少し調子に乗りかけた。自分は足ツボ指圧で、痛さの向こう側の気持ちよさを味わえる適性がある、と思い込まされたわけだ。今思えばそれこそが、足つぼ業界的にはセールストークだったのではないかと思う。
それから、体の疲れを感じると足繁く足つぼに通うようになってしまった。色々なお店を試した。痛くない足マッサージの英国式リフレクソロジーから、日本一痛いと言われているお店にも通った。しかも、各お店で足裏をやっていただく際に、そのあたりをもう少し丁寧にやってほしい!という箇所があらわれると、「あ、そこ痛いですね~。どこの部位ですか?」とか、反射区を知らないふりをして、とぼけて聞く悪い知恵までつけてしまった。ある時は、鼻詰まりや頭痛があって、足先を丁寧にやってほしいと思っていた。足指に差しかかった時に「あ~そのあたり痛いです~。悪いのはどこですか?」とわざとらしく尋ねたら「頭です」と返答された。わざと聞いたのが、バレていたのかもしれない。
とはいえ、足つぼは行けばお金がかかる。一時期は自分で足つぼ専用の棒を使って押しまくったりもしていたが、今度は手が疲れる。というわけで、今は的場電機製作所が出している足裏マッサージ機「プチローラー」を愛用している。そこそこのお値段はしたが、買ってよかった。強力なモーターでモミ玉がゆっくり回転する。そこに足裏を乗せて、自分の加減で好きなところを揉みほぐす。まず原稿仕事のお供に最高。リラックスできるし、一回15分の設定なので、足をほぐしながら自分がどのくらいの時間PCに向かっているか、目安ができる。ヒールを履いて歩いた一日の締めくくりにもGood。体の不調を感じた時には、反射区をほぐすと楽になる気がする。コロナ禍で対面のマッサージに行けなくなった時期にも、大活躍した。
こんなことを書きながら、私の机の下には「プチローラー」が回転している。今日も私の足裏をほぐしてくれてありがとう。