むもーままめ(55)Tさんとなわとび、の巻

工藤あかね

 何かをした覚えがないのに、急にお礼を言われることがある。一番古い記憶は小学校一年生の時の冬。普段さほど交流を持っていなかった同級生のTさんから、年賀状が届いた。そこには「いつもなわとびをおしえてくれてありがとう。またおしえてね」と書いてあったのだ。「え?なわとび?おしえたっけ?」と狐につままれたような気分になった。

 誰かと間違えたのかな?という可能性もチラリと思いつつ、年賀状には「またなわとびやろうね」と書いて返送した。だがポストに入れた後になって、やはり誰か他の人と間違えて年賀状送ってきたのではないか……と、内心ドキドキしていた。

 それからしばらくして、Tさんのお誕生会によばれた。それまであまり一緒に遊んだ覚えもないのになぜ声をかけてもらえたのか不思議だったが、プレゼントを用意してTさんの自宅に向かった。Tさんのお母様が丁寧に出迎えてくださった。お食事のあとに七段飾りのお雛様の前でしばらくお話ししていると、お母様が「いつもTが体育で助けてもらっているそうで、ありがとうございます。これからもどうか仲良くしてやってください」とおっしゃるではないか。なわとびさえ教えた覚えもないのになぜか感謝されていると思ったら、今度は体育?わたし何手伝ったっけ?余計わけがわからない。

 Tさんは、華奢で声が小さく、物静かな人だった。当時、なわとびには技によって級が設けられていて、基本のまえとびができるようになったら、あやとび、うしろとび、うしろあやとび、二重跳びetc…と進んでゆく。そういえば、Tさんはまえとびも上手にタイミングがとれなかったのだった。ある土曜日、下校しようとしたらTさんがまえとびの練習をしていた。Tさんの足がちゃんと地面から離れていなかったので、なわを持たずに垂直にジャンプするところから付き合うことにしたのだ。次は片手だけに縄を持って、飛んだタイミングで縄をピシャリと地面に打ち付ける。仕上げに、まえとびをするTさんの前に立って、縄がまわるタイミングで一緒にジャンプした。とうとうTさんは安定してとべるようになった。それを見届けてから家に帰った。

 夏のプールの時期には、ひとつの教室の中で男子も女子も一斉に着替えなければならなかった。あるときTさんが着替えに手間取っていたら、男子にからかわれてしまったのだ。ある男子がTさんにちょっかいを出そうとした時に、わたしは隙をみて、彼のタオルスカートのゴムをバチンと引っ張ってやった。その瞬間から標的がこちらに変わったので、Tさんは無事になった。もしかしてその時のことを、Tさんがお母様に話して、お母様が夏から桃の節句までずっとそれを覚えていて、わたしに感謝してくださったのだろうか。

 T さんは、私とよい友達になろうとしてくれたはずなのに、私は鈍感でちゃんと気づかなかった。Tさんのことをよく知ろうとしなかった。彼女について知っているのは、学校では口数が少ないのに家では声が大きくてのびのびしていたこと。彼女がピアノを習っていて、音楽が好きだったことくらい。たぶん彼女は学校という場がそんなに得意ではなかったのだろう。私もそうだった。彼女、どうしているのかなあ。今ならとても仲良しになれる気がするのに。