文体練習

篠原恒木

【客観的に】
三日前から喉に痛みを感じていた。妻は耳鼻科に行くことを勧めた。
二時間後、肌寒いなかを病院へと向かった。
老医師が熱を測ると36.6度だった。
喉に薬を塗られたときに、こみあげてくるものを感じたが、我慢した。

【メモ的に】
三日前。喉痛い。妻「耳鼻科へ行け」。
寒かった。二時間後、病院へ。
先生おじいさん。熱36.6度。
薬を喉に塗布。ゲーッ。

【遡行的に】
吐きそうになった。喉に薬を塗られたからだ。
熱を測ると36.6度。耳鼻科での出来事だったが、医師は老人だった。
それより二時間前に、妻は私に「耳鼻科へ行きなさい」と勧めていた。
私が三日前から喉が痛いと訴えていたのだ。

【びっくり的に】
喉が痛いのなんのって! 三日前からだぜ! カカァは「耳鼻科へ行け!」とホザく!
まったく寒いときたら! 病院へ行ったさ! 
ところが医者はジイさんだ! 熱を測ると36.6度! 微妙じゃねぇか!
喉に薬を塗りやがった! 反吐が出そうだったぜ!

【万葉集的に】
ちはやふる 君は吾病院に行かざれば 思い病になりにけるかも
ひさかたの 雨も降らぬしこの空に 吾病院にひとりさぶしも
しろたえの 衣纏いし老いびとは 熱にしあれば診れば悲しき
あかねさす 薬を塗りて我が喉は 良きにしなれば なりにけるかも

【広告会社のプレゼン的に】
私事で恐縮ですが、三日前から喉が痛くてですね、日頃からイニシアティブを
グリップしている妻が「アサップで耳鼻科へ行くように」と、トップダウンの
案件をオーダーしてきたものですから、このスキームはもうリスケも
ペンディングも無しで、KPIを求められるコミットメントだったわけです。
これはプライオリティの高い自分マターでしたので、タスクをオンスケで
エンゲージメントさせるべく、即アグリーして、アポなしで耳鼻科へ、という
フェーズに移行したわけです。内科でなく耳鼻科というのも、ずいぶんと
セグメントしたシナジーだとは思ったのですが、妻のジャストアイデアは
すでにコンセンサス済みでしたので、リスクヘッジするため、そして
ハレーションを避けるためにケアしました。喉のほうはおかげさまで、
コンプライアンス的にも問題はございません。

【複式記述的に】
三日前の七十二時間前から私の首元の喉が激痛の痛みを起こした。
配偶者の妻にその様子の症状を伝えて述べると彼女は「耳鼻科へ行け」と
助言して告げた。二時間後の百二十分後、極寒の寒さのなか、医院の病院へと
歩行しながら歩を進めた。病院の医師である医者は老人のお年寄りだった。
首元の喉に薬を塗布して塗られた。嘔吐の吐き気を催した。

【現代口語的に】
三日前からぁ、喉がチョー痛かったのぉ。てか、マジ痛いわけ。
ドン引きして耳鼻科っつーの? 知らんけど。耳鼻科しか勝てん。
そこ行ったら、センセーがジジイなのぉ。それってムカつくじゃん。
したらぁ、喉に薬塗るわけ。ヤババじゃない? 笑えるー。ウケるー。
ガチしょんぼり沈殿丸っつーか、おこでしょ、おこ。激おこっしょ。

【色彩的に】
暗黒の三日前から喉に真っ赤な痛みが起こった。青ざめた私は妻に告げると
彼女は「耳鼻科に行きなさい」と黄色い声を張り上げた。
紺碧の空に橙色の日差しのもと、灰色の耳鼻科へと向かった。
白衣を着た老医師は、臙脂色の薬を深紅の喉に塗り、吐きそうになった
私の顔は緑色へと変わった。

【長嶋茂雄さん的に】
スリーデイズアゴーですか、そのへんからですね、マイスロートがアウチでして、
ワイフにセイしたら「ホスピタルがドミナントよ」とのアンサーでしたから、
コールドなウェザーでしたが、ツーアワーズレイターにゴーしたわけですね。
ドクターはオールドでしたが、いわゆるひとつのレッドなメディスンつけて、
ジ・エンドでした。ええ、ええ。

【ニュース的に】
今日の午後、三日前から喉の不調を訴えていた会社員の篠原恒木さん(62)が、
近所の耳鼻科へ治療のため通院しました。診察した医師の話によりますと、
「体温は平熱だが、喉に若干の腫れが認められたため、念のため炎症を抑える
薬を塗布した」とのことです。篠原さんに対しては、野党をはじめとして、
与党の一部からも、「自分の言葉で丁寧に責任説明を果たすべきだ」と、
批判の声が上がっています。

【ギョーカイ的に】
ドーノがタイイーなのでチャンカーに言ったら「ビカジーにクーイーせよ」
と怒られたから、ションテン・ガリサーでインビョーに行ったのよ。
ツーネーはなかったんだけど、スリクをリーヌーされて、
クリビツテンギョー、こちとらローゲー寸前でジラレナイシン。

うーむ、やはりレーモン・クノーには遠く及ばないなぁ。
楽しかったけど。