アジアのごはん(109)おかずかけご飯

森下ヒバリ

暑い・・! お盆あたりは梅雨のような長雨で頭にカビが生えそうな気配だったが、やっと雨が上がったと思ったら、暑さがぶり返して収まらない。長雨の時は、やっぱり一番嫌いなのは湿気だよな、と思い、暑さがぶり返すともうこんなに暑いのは耐えられないと思う。

とにかく料理をしていると、暑くなって出来上がるころには息も絶え絶えである。なので、簡単な料理がいい。品数も減る。そんな真夏の昼ごはんメニューにぴったりなのが、アジア諸国で食べられている、一皿盛りのおかずかけご飯だ。暑くなってくると、うちのお昼もいつのまにかこれになっている。

お皿にご飯を盛って、野菜炒めなどのおかずをのせ、目玉焼きをのせる。油多めで焼いた目玉焼きは白身のふちはカリカリ、黄身はトロっとした状態が最高である。目玉焼きは、崩しながら野菜炒めとごはんと一緒に食べても、卵とごはんという組み合わせで食べてもいい。とにかく、目玉焼きがあるだけで、一皿料理の単調さが消え、ぐっと食べる楽しみが増える。まあいちおう、みそ汁は必ずつけることにしているが、ほかには特に作らなくてもだいじょうぶ。

タイなどのアジア諸国では、お昼時には気軽な食堂に作り置きのおかずが何種類もバットに入れて並べられ、客は皿に白飯を盛ってもらい、好きなおかずを注文して載せてもらって食べることが多い。その場であれこれ作ってもらうこともできるが、お手軽で早く、いろいろおかずも選べるので、大変便利。知らないおかずを試すこともできるし、旅行者にも現地の働く人々にもありがたいシステムである。

タイでは店の人がごはんもおかずも盛るのがふつうで、たとえば白飯が15バーツ、それにおかず1種載せで30バーツ、2種載せで40バーツ、追加の目玉焼きは5バーツ、とか決まっている。このタケノコ炒めをたくさん食べたい・・と思うようなときは2倍盛りにしてくれとか、おかずは別盛でとか頼む。

マレーシアではご飯を店の人が盛って渡してくれ、おかずは自分でバットからすくって載せていき、最後に店の人に見せて金額を決めてもらって支払いをしてからテーブルに行く、というパターンが多い。

はじめは慣れなかったが、このマレーシアのシステムは、自分の食べたいものを自分の好きな量だけ食べることができるので、タイなどの店の人が主導権を持っているやり方より、断然好ましい。レジ係の店の人は、大盛の青菜炒めの横にひと切れだけ入ったナス炒めを幾らで計算しているのか、どうもファジーなところがあるが、ええ?と思うような理不尽な値段を言われたことはないので、問題はない。

さて、今日のお昼は・・、冷蔵庫を覗き込みながら考える。う~ん、もやしとゴーヤと豚肉のチャンプルーかな。空心菜も食べなくては。空心菜ともやしと豚肉? 野菜炒めの組み合わせを考えるのも楽しい。にんじんのしりしりをちょっと入れるとおいしいんだよね。しりしりは沖縄で千切りという意味の言葉だが、沖縄には台湾由来と思われるしりしり器があって、大きめの穴が開いたすりおろし器のようなものなのだが、これでにんじんや青パパイヤをすりおろすと、ギザギザのある細切りになる。これは味がしみやすくて、大変優れモノだ。

よし、今日は空心菜ともやしメインで、ちょっと玉ねぎとにんじんを加えてニンニクみじん、そして豚肉の薄切りを炒め、トウガラシと塩、ナムプラーであっさりと味付け。目玉焼きを焼いて・・と。

はあ~、こんな暑い時にいろいろ料理なんかできないよなあ、洗い物も簡単だし、おかずかけ飯、最高・・。そういえば、日本ではお皿にご飯を盛って、おかずをかけて食べるといえば、ほぼカレーしかないのはなぜなんだろう。お皿に盛るわけではないが、どんぶりにご飯を入れておかずを載せる丼物はある。いやいや、この暑いのに親子丼とかカツ丼とか食べたくないぞ。大きなどんぶりにたっぷり入ったご飯も暑苦しい。

お皿に載せるタイプの、おかずかけご飯を食べるのは、中国南部、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ビルマ、マレーシア、インドネシアあたりだろう。ルーツ自体は中国南部かもしれないが、国それぞれに料理も店でのルールも違って面白い。野菜もたくさん食べられるし。共通しているのは、平たいお皿にご飯とおかずを盛ること、食べるのはスプーンとフォークか、れんげであることだろうか。ステンレスのれんげはご飯をすくうだけでなく肉や魚を切り分けるのもたいがい出来るし、スープも飲める。

さて、白飯を皿に盛り、出来上がった空心菜ともやし炒めを食べたい分だけ載せて、目玉焼きも載せて、ナムプラープリック(ナムプラーに生トウガラシの輪切りを混ぜ込んだもの)をちょちょっとかけて、れんげをとっていただきます。

しつこいようだが目玉焼きは白身に火が通り、ふちは多めの油でカリカリ、黄身はトロっとしているのが極上だ。れんげで目玉焼き切り分けると、とろ~っと黄身がごはんに流れた。アジア諸国では卵の扱いが雑なところが多くて、一度黄身トロ目玉焼きで当たったことがあるので、旅の途中のときは黄身トロはあまり食べないようにしているが、日本の卵は大丈夫なので、心置きなく。

一口食べると、うん、うまい。そして、マレーシア・クアラルンプールのおかずかけご飯食堂トクトク亭のめったに笑わない店のお兄さんが、にこっと笑ってお釣りをくれた、ような気がした。二口食べると、今度はペナンのインド(マレー料理もちょっぴり折衷)食堂のラインクリアの気のいいおじさんが「もっとグレイビーソースかけるか?」と尋ねてくれている声が聞こえた・・ような。

早く、また旅に出たいものです。