2年半ぶりにタイでひと月過ごし、8月中旬にバンコクからラオスの古都ルアンパバーンに飛んだ。ラオスも7月から入国規制を緩和し、行きやすくなった。ワクチン接種証明か陰性証明で入国でき、隔離・アプリ登録などは一切なし。しかも陰性証明はATK抗原検査でよいので、費用も安い。
バンコクで散歩をしているときに、近所のキングモックット病院の敷地内にPCR検査・ATK検査のブースを見つけた。陸軍病院感染症研究所の出張所らしい。抗原検査は300バーツ、1200円ぐらい。ちなみに日本を出るときのPCR検査は1万5000円だった。20分ぐらいで結果が出る。証明書が出るかと尋ねると、ちゃんと見本(誰かの検査証明の要らないもの)を見せてくれた。「これ持っていってもいい?」と聞くと、「いいよ~」と名前とID番号をマジックでちゃちゃっと消して(透けて読めますけど)渡してくれた。
証明書はちゃんと必要事項がそろっていて、ラオス入国は病院や検査書の証明書であればいいので、まったく問題ない。フライトの前日に検査を受けて陰性証明をもらった。
1週間前まで席がガラガラだったので、フライトキャンセルになったらどうしようと心配していたのに、乗ってみると満席に近い。ルアンパバーンに近づくと飛行機は緑の山々とメコン河の上をすれすれに飛び、とても美しい眺めを楽しめる。ちょっとコワイけど。あまり平地がないのでこうなるのだが、問題なく着陸。雨期のルアンパバーンは緑に包まれ、なんとも美しい。タラップから降りただけで、景色に癒されふーっと深呼吸してしまった。
荷物を受け取って小さなロビーに出ると、誰もマスクをしていない。日本人よりマスクに厳しいと思うほどのバンコクから来たので、ちょっと驚いた。町に着いて宿に入っても店に入っても通りを歩いてもやはり誰もマスクはしていない。あ、している人がいたと思うとタイからの観光客だった。隣の国なのに、ものすごいギャップである。ルアンパバーンは人口が少なく人が密集する場所がほとんどないのだから、まあマスクは要らないよね。
ルアンパバーンのメインストリートはあまり観光客もおらず、閑散としていた。すぐにRENTやSALEの看板が目に付く。この2年半コロナ禍で観光客は途絶え、土産物屋やレストラン、ゲストハウスがいくつも廃業し売りに出されているのだった。お気に入りだったレストランのココナツガーデンも廃墟のようになっていた。バンコクでも店が閉まったり、休業したりはしていたが、ルアンパバーンの観光客エリアはその比ではなかった。
町を散歩しているうちに、行きつけにしていた店はほとんど営業していることが分かったので少し安心する。フランスパンの美味しいカフェ・バントン、ラオスの米麺カオソーイの名店、ナンおばちゃん食堂、川べりのレストラン・・。
よし、今日はナンおばちゃんの食堂であんかけ麺を食べるぞ。ここのメニューにはフー・クア(炒め麺)としか書いていないが、出てくる料理は炒めた麺の上に野菜と肉の入ったとろっとしたあんがかかったもの。タイではラートナーと呼ぶ。ルアンパバーンのラートナーはタイや中国のあんかけ麺とはちょっと違う。麺は幅広米麺のセンヤイを使い、麺を炒めるのでなく多めの油で半分揚げ焼きにしてあるのだ。
「あれ、なんか麺がカリカリしてる・・こっちはもちもち!おいしいい!」初めてナンおばちゃんの店でラートナーを食べたときは、炒めすぎてうっかりカリカリにしてしまったのかと一瞬思ったが、意図的にカリカリもちもちに仕上げているのだった。ナンおばちゃんが作るところを見ていたら、スキレットみたいな鉄鍋に油が入っていて、そこに茹で麺をじゅんっと入れて揚げ焼きしていた。センヤイは麺が平べったいので、カリもちに出来るのだろう。ちなみに幅広麺のセンヤイを使った汁麺はラオスで見たことがない。
ラートナーを味わいながら、店の外を眺めていると、バイクで持ち帰りの注文がしょっちゅう来ている。フードパンダのロゴをつけたバイクもある。デリバリーサービスがすっかり根付いているようであった。「この2年間大変だったけど、最近はお客も増えてきたから何とかね」ナンおばちゃんはニコッと笑ってそう言う。この店は地元客が多いし、安くておいしいから何とかなったのだろうな。お店が健在でまたおいしいラートナーが食べられてうれしかった。
中国の援助で去年の12月にラオス高速鉄道が開業した。中国の雲南省からラオス北部の国境ボーテンを経てルアンパバーンを通り、首都ビエンチャンまでつながっている。しかし中国の新型コロナ対策の厳しい出入国制限のため、まだ中国との国際列車は貨物以外走っていない。タイ側ともまだつながっていないが、将来的にはメコン川の対岸タイのノンカイとつなげて、中国からタイのバンコクまで鉄道をつなげる計画である。
これは中国の野望なのだが、まさか本当にラオスに新幹線を通すとは思ってもみなかった。4~5年前にラオス北部を移動しているときに巨大な新幹線の絵の看板をあちらこちらで見て、実際に山の中をトンネル工事しているとは知っていたが、まさか日本の本州とほぼ同じ面積に人口733万人のほとんど森林山岳地帯のこの国に? 狙いはラオスでなく、タイのバンコクまで鉄道を走らせることだ。タイの鉄道建設が中国の野望通りにはなかなか進まないので、中国政府もさぞやイラついていることだろう。
費用は中国が3分の2を負担し、残りはラオスが負担しているがそれも中国からの借款である。お金が返せない場合は営業権を中国が持つ、というのが約束らしい。しかし、どう考えてもラオス国内の需要はあまりないし、採算がとれるとも思えない。・・と、思われていたのだがラオス高速鉄道はまだ中国とつながっておらず、中国からの観光客もほぼ来ていないのに、毎日満員だという。とくに週末やタイの連休は増便しても需要に追い付かない。タイの連休・・そう、乗っているのはほとんどタイ人観光客なのだった。
タイにいるときには「ラオス新幹線かあ、ルアンパバーンからビエンチャンまで乗ってみようかな」と考えていた。しかし、このタイ人観光客の熱狂ぶりを見ているとチケットも取るのが大変そうだ。しかも駅は市街地から30キロも離れたところにあるという。何か面倒くさくなり、ルアンパバーンとバンコクの飛行機往復にしてしまった。鉄道は好きだが、正直言って新幹線はとくに乗りたいわけでもないしね。
とりあえず、ルアンパバーンの観光業は週末のタイ人観光客でなんとか持ちこたえているようであった。2週間の滞在期間中に、少しずつタイ人以外の観光客も増えてきた。で、ラオスの新型コロナ感染状況はどうなのかというと、感触だが日本やタイと同じくけっこう流行っている模様。タイもラオスも届け出義務とかはないし、病院でPCR検査を受けて判明した人数だけを発表するシステムなので、タイでは1日2000人程度と発表されているが、まあざっと1日2~5万人はいるだろう。
タイではATK抗原検査キットを薬局やスーパーなどで手軽に買えるので、熱が出るとその辺のお店でキットを買ってきて自分でチェックする。それが陽性でも、よほどのことがない限り病院には行かずに家で寝ている人がほとんどのようだ。ラオスでは、タイほど抗原検査キットを売っていないので、熱が出ても検査はせずに寝ているだけと思われる。病院もとても少ないし。軽症で済むオミクロン株は、タイやラオスでは現実的にもうインフルエンザなみに扱われているのだった。