Water Schools

管啓次郎

しずけさが海からやってくる
何も音がしない午後だ
私たちが屋上にかけあがると
周囲はすべて水
灰色の空が下りてきて
髪や頬を撫でた
たしかに見たのは鳥たち
からす、かもめ、鳩、白鳥が
とまどったように、でも騒ぐことはせず
空をゆったりと旋回している
下を見ると冷たい春の海の中に
無音の風景がひろがっていた
松林あります、町あります
青緑の光の中を小さな船がすすむ
私たちは手をつなぎ体を寄せ合って
今夜歌うための歌をみんなで考える


コンクリートの壁にともだちが住んでいた
いろいろな民族衣装を着ている
みんなでっかい笑顔
ヒジャーブをかぶった女の子
タータンチェックの男の子
キモノを着た私たちが
パンダと手をつないでいる
空から光がさして
平面の子はアニメーションになる
遊ぼうよ、出ておいで
ひどい波だったね、もうだいじょうぶ
ぼくらがひっぱりだすとみんな出てくる
そのあとにつづくのは忘れられた子供たち
平面から出ておいで、記憶から出ておいで
だってあの日はそこにはない
空にある


山に人の子がいなくなって
小学校には河童がくるようになった
狸と兎と鹿と猪と
河童の学校だ
では授業をします
文字の代わりに○や△を描き
不思議なものを見たように笑う
ピアノには音が出ないキーがあって
弾いてみるとキノコ狩りのように楽しい
暑い夏には川まで下りて
水浴びしてはまた教室に戻る
ニンゲンはこのあたりに数百年住んだけれど
もう来ない、もういらない
これからは山の自主管理でやっていく
獣と人をつなぐのが河童の役目
山川草木鳥獣虫魚のニッポンへ