阪本順治監督の新作

若松恵子

10月31日より、阪本順治監督の新作映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」が公開された。今回は運よく完成披露試写会に当たって、ひと足先に見ることができた。東京国際フォーラムで行われた試写会には、主演の吉永小百合さん含めメインキャストが勢ぞろいして挨拶した。阪本監督があいさつで「この映画は2回目がおもしろいんです」と言っていたから、ちゃんとお金を払って劇場に2回目を見に行かなければと思う。

今回は、世界初の女性エベレスト登頂者であり、七大陸最高峰にも立った登山家、田部井淳子の物語だ。彼女のエッセイ集『人生、山あり”時々“谷あり』を原案としている。映画は、エベレスト頂上に立つことをクライマックスには描かない。晩年、彼女ががんの闘病をしながら福島の高校生を招待して富士登山の活動をしていたことも大げさに描かない。有名人の子どもである事で生きづらくなる息子との衝突も、しめっぽくは描かない。彼女の人生の軌跡をコツコツと辿っていく。そこが良い。見終わった後、しみじみと色々な事を思い返した。そして田部井淳子という人にとても興味を持った。

新作公開をきっかけに、家にある阪本作品のDVDを色々出してきて見返している。久しぶりに見た「傷だらけの天使 愚か者」(1998年)は、今もなおかっこいい映画であった。「座頭市 THE LAST」(2010年)は、香取慎吾が若き座頭市を体現していて、みごとだった。「市!そいつらをみんな叩き切ってくれ」悪い奴らに立ち向かう座頭市をいつのまにか応援していた。埋もれてしまわないでほしい名作である。

阪本監督はインタビューで「自己模倣はしたくない」と語っている。「らしい」と言われることから逃れるように、様々な題材に取り組んできたように思う。でも、たくさんの作品のなかに一環として流れているものがあって、そこに私は魅かれるのだと思う。