イラク戦争から17年とコロナ危機

さとうまき

イラク戦争当時、相沢恭行君は、人間の盾でイラクに入っていたのだ。もともと彼はミュージシャンだということを僕は知らなかった。

2003年3月。イラク戦争が始まる直前、僕は、本当ならイラクにいるはずだったのだが、帯状疱疹になってしまい2月の半ばにいったん日本に帰国して1か月ほど日本で様子を見ていた。僕は、そんな状況でもうまく立ち回っていてイラクのビザを取得できたのだが、日本大使館がイラクから撤退してしまい、アメリカの攻撃は避けられなくなってきたのが明らかだった。それで隣国のヨルダンに行って待機していた。

新聞記者やTV関係者がヨルダンに結集していて、毎日それは「お祭り騒ぎ」みたいになっていた。くそみたいなフリーランスもいて、「ボランティアしますから一緒に連れて行ってください」と寄ってくる。大手のTVも、「衛星電話渡しますので、イラクに入ったら一分○○円で契約しましょう」といってくるから面白かった。

僕の仕事は、人道支援だったので、決してそういうお金に目がくらむことはなかったので、彼らがいくら提示したかも覚えていない。いや、その金額を聞いたら目がくらむから、最初から聞こうともしなかったのだろう。NGOでもくそみたいに金を日本政府からもらってた人もいた。ある看護婦は一か月100万円で雇われていた。まあ、そういう金には程遠かったが、メディア関係者は情報交換だといって毎日のように、うまいものを食わせてくれたのでそれくらいの恩恵はあった。

その時、相沢君らは、人間の盾としてイラクに入っていた。サダム政権が崩壊して、すでに人間の盾は必要なくなったので彼らはヨルダンに出てきた。某通信社が、面白い日本人がその中にいるというので、一緒にすしを食うことになり、始めて相沢君に会ったのだ。その翌日僕は、入れ替わりにイラクへ入っていったのを思い出す。

あれから、17年がたっていた。僕は、昨年、「この仕事を潔くやめなさい。」という天の声が聞こえてきて、イラクからは引退することにした。相沢君は数年前から、ミュージシャンに戻って、イラクの歌をアラビア語と日本語で歌たりしてかかわり続けていて、イラク戦争開戦の日にメモリアルイベントをやろうと誘ってくれたのだ。しかし、新型コロナウィルスで、イベントは中止せざるを得なくなった。

幸いにも、会場は、荻窪のThe ancient world というオリエント・ワインを扱うお店の地下室だったので、撮りためた写真を展示してもらうことにした。今回30枚ほどの写真を展示しているが、かなりフォトショップで加工した。2003年の写真なんて、本当にカメラもぼろくて、画素数が荒すぎたりしてクソみたいな写真。それでも、加工してみると面白い。

なによりも、写真に写っている子どもが、もう立派な大人になって、昨年から始まったイラクの汚職追放と、民主化を求めたデモに参加している。例えば、ムスタファは当時8歳で、米軍の空爆で足を怪我した。隣にいたおじさんは即死だった。その彼がデモに参加している写真を自撮りして送ってくれる。17年前、ギプスをしている写真を僕がとってやったのを大事にしていて、送ってきた。そして、デモに参加した友人が怪我をしてギプスをしている写真を送ってくる。「17年前と同じだよ」イラクはいまだにギプスが必要な国なのだ。

しかし、SNS が普及して、すごい時代になっている。コロナで世界中が閉鎖されてしまっても、砂漠の難民キャンプからデンマークに移住したアザット青年は、「マスクがないんだけど、送ってくれない?」って時差も気にせずに連絡してくる。Facebook のおかげで写真に写っている奴らの消息がつかめるのがすごい。

昨日は、モスルの男の子がいきなりビデオ通話してきた。「だれ?」「僕だよ」「うーん、第一どこにいるの?」「モスルだよ」一年間にモスルの小児がん病院のクリスマスパーティに行ったときにたまたま参加していた子供だった。外出ができず暇らしい。イラクから離れた僕にとっては、彼らが連絡してくれるのがとてもうれしい。そういえば、昨年の天の声は、「潔くやめるのがかっこいいぞ」と言ってきたが、イラクにかかわった17年間の写真を改めて焼いてみて、戦場はいつだって泥臭いわけで、潔いとか、かっこいいとかそういうのとは程遠く、写真の中の彼らの成長を見続けていきたいと思うのだ。

コロナが世界規模で大変なことになってきた。経済の打撃は大きくて、貧富の差はどんどん開いていくだろうな。相沢君はミュージシャンだから、ライブのキャンセルが続いていて大変そうだ。それでもぶれずに歌い続けるところがすごい。僕も人のことは言えず、そろそろ仕事を探しに、面接に行ってきたが、マスクかけたままでいいといわれたが、面接官との距離が遠く彼らもマスクかけてもごもごしゃべるから声がはっきり聴きとれないし、換気のためか窓が開けっぱなしで寒い。なんかすっかりやる気がうせてしまった。いやいや、やる気になってもらわないと困るんだけど(これは天の声)

さて、3月31日までの展覧会は、一週間くらい延長することにした。
展覧会に来てくださいとは誘えないが、ワインを買いに来るついでに覗いてほしい。特にアッシリアワインはおすすめ 。


 詳しくはこちら
 http://ancient-w.com/
 展覧会の様子はこちらで配信しています。
 https://youtu.be/9uKnB5ovWTQ