ガザへのオマージュ

さとうまき

数年前、コロナが蔓延していた時は、街には人がいなかった。それが、今でははじけたように、都心は人であふれ、特に最近は外国人観光客であふれている。

僕は、数年間に、イスラエルとパレスチナの若者交流を行っているクリスチャンのおばあさんにであった。「仲良くなれるんです」という。僕はというと、30年以上前のオスロ合意で、ユダヤ民族とアラブ民族の和解という一大イベントをTVで見てとても感動した。その勢いで、パレスチナに出かけていき、5年間現地で暮らしたのだった。「仲良くなれる」と信じていたが、それほど甘くはなかった。

イスラエルは、いつもしたたかで、奪った土地は一ミリとも返さない。そう考える人たちが、和平をつぶしにかかった。2000年。和平の最終的な話し合いは、イスラエルが、96%の土地を返還するという提案をしたにもかかわらず、アラファト議長は合意せず、和平は台無しになってしまった。といわれている。このまま、交渉を続けていくと本当に、パレスチナという国が出来て、イスラエルは奪った土地を返さなくてはならなくなる! そんな危機感を感じていたイスラエルの人たちが和平をつぶす口実を探っていた。リクード党の党首だったシャロンが、神殿の丘に1000人の警備員を連れて立ち入り、「エルサレムはイスラエルのものだ」とイスラム教徒を挑発した。もちろん、現実はもっと複雑だったのだろう。でも実際、怒ったパレスチナ人が石を投げはじめ、「パレスチナはテロリスト」と再定義して、「仲良くなる」話は頓挫した。

僕も、2002年には、現場を去らなければいけなくなった。それ以来、僕の中で、パレスチナを封印して一切かかわることがなかった。

おばあさんは、「仲良くなれるんです」という。へーと思いながらも、僕は老婆の活動に興味をもって手伝うことにした。2023年夏、イスラエルとパレスチナの若者が日本にやってきたが、彼らは仲良くなることはなく、日本を去っていった。おばあさんは、ひどく落ち込んでいた。

その後、UNRWAがガザから3人の中学生を招聘して、講演会をおこなった。中学生たちは、自由が制限されたガザの様子を語りながらも、将来の夢をしっかり語っていた。

そして10月7日がやってきた。ハマスの越境攻撃のニュースが飛び込んでくる。1200人が惨殺されたという。「ああ、パレスチナはひどい代償をはらわされるなあ」と思いながらも、ここまでひどい状況になるとは思わなかった。2年間で餓死者6万7000人以上が虐殺。6割から8割が民間人、子どもは18000人。栄養失調による死者は455人で、子どもが150人以上(CNN)だという。

私たちに何ができるのか、2年間ずーっと投げかけられた。何もできなかった。僕は、今まで「人道支援」を生業にしてきた。今は前線を退いてはいるものの、何とかしなければという思いで憔悴していた。

イスラエルは、今回ガザを封鎖して、支援物資の搬入すら阻止してしまった。パレスチナ難民の支援機関であるUNRWAが、ハマスに加担しているとして活動停止にしてしまった。保険局長を務める清田さんは、「我々は失敗した。」と悔しがる。僕は、支援活動の前線からは引退していたが、かつての仲間たちが苦しんでいるのに少しでも協力しようとコーヒーを売って現地にお金を送っている。わずかなお金しか送れないのだがないよりましだ。

僕がパレスチナにいた時、ガザで知り合った藤永さんは、ガザの男性と結婚。前妻との子ども7人を面倒見ていたが、第二次インティファーダの後、本人はガザに入れなくなり、夫は精神的に壊れてしまい、子どもたちも2人しか残っていなかった。これが戦争前のガザの現状だ。戦争がはじまると2人の子どもたちが頑張って支援活動を始めた。ハーンユニスで、寺子屋とサンドイッチを配ったりしていたが、そこも空爆され、マワシという避難先では、食料もなかなか手に入らず、高いお金を出してお菓子を配ることくらいしかできなかった。

そして10月に成立した停戦。子どもたちが、楽しそうに踊っている動画を送ってくれた。さあ、これからどうなるのだろう。日本にやってきた中学生たちは、ガザに戻ることはできなく家族に会えなくなってしまった。「あなたたちが、パレスチナのことを忘れずに行動してくれることが希望です」と語っていた。

おばあちゃんの、「仲良くなれるんです」という言葉が耳に残る。さあ、人類は一体どこへ向かうのだろうか?

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写真とさとうまきのガザへのオマージュ作品を展示します。

・ガザの展示
第60回目黒区文化祭 ユネスコ美術展
11/19(水)〜 11/24(月)10:00-18:00(最終日は16時まで)
目黒区美術館区民ギャラリー 東京都目黒区目黒2丁目4−36

・アッサンブラージュ展
2025年11月21日(金)~11月26日(水)12:00〜18:30(最終日は16:00まで)
ギャラリー日比谷 東京都千代田区有楽町1丁目6−5