トルコとシリアの大地震

さとうまき

僕は2020年からアレッポの小児がんの子どもに仕送りを続けている。最初は、シリアに関心のある大学生たちが主体となっていたが、一体自分は何をしたいのかを探すための大事な時期でもあるから、「自分」が見つかれば、もう、それ以外には関心がなくなるのは当然だ。関心が薄れた若者にしつこく言い寄るジジイにはなりたくないし、ジジイと言われてもめんどくさいのである。そんなこんなで、最近はほとんど一人になってしまい、まあ、気楽ではあるが限界でもある。

残念なことに2人支援していた子は、昨年亡くなってしまった。今は、サラーハ君という少年だけだ。つい数日前に、ストーブにくべる灯油もなくゴミを拾ってきて燃やしていた。こないだは、タイヤを拾ってきて燃やしたらしいが、そうそうタイヤも落ちてなくて燃やすものもなくなり、一週間毛布の中で凍えているという。

これは、欧米が科す経済制裁の影響である。国民を苦しめる残虐なアサド政権が退陣に至るまで、シリア人をさんざん苦しめるという目的である。尤も苦しむのは、最下層の人々である。「ほら、お前たちの国民がこんなに苦しんでいるぞ、どうだ? こんなに苦しんでいるぞ。ひひひ。いい加減にまいったしないと、もっといたぶるぞ」というような本当に悪趣味な経済制裁である。そもそも「自国民を虐待するとんでもない独裁者」に制裁を加えるべきなのに、これでは、無実の人々が拷問にかけられ虐待されているのと同じなのだ。

そのような矢先だ。
2月6日「トルコで地震があった」というニュースが入る。トルコの南西というとシリアにも影響があるのだろうかなあと考えていた。携帯にシリアから小児がんのサラーハ君のお母さんからメッセージが入る。「アレッポは地震で揺れています。そちらは大丈夫ですか?」え? 大丈夫って。シリアでは地震など今まで体験したことがないから、お母さんは、地球が揺れているとでも思ったのだろうか。意外と日本は、シリアのすぐそばだと思っているのかもしれない。

SNSのメッセージは、すべてアラビア語だが、Googleの翻訳のおかげで、何とか通じる。僕が送るときは、日本語をアラビア語に変換し、もう一度日本語に変換しておかしくないかチェックして送るのだが、慌てていて、日本語のほうを送信してしまった。お母さんは、「私は小学校しか出ていないので、わかりません!」と返してくる。いやいや、中学、高校出たぐらいじゃ日本語はわからないだろうと思わずほっこりしてしまった。

しかし、ほっこりしている場合ではない。一家は家が揺れだしたので外に飛び出したが、近くのビルにいたお母さんの妹と17になる娘とその歳の夫25歳と2か月の赤ちゃんが生き埋めになっていたのだ。すぐさま動画が送られてきた。「救急隊が駆けつけて作業をしていますが一向にはかどりません」。雨が降り寒そうな中、男たちがスコップで瓦礫をかき分けている。欧米が課す経済制裁で重機がないのだろう。「また、大きな地震が来たという噂も広がって、私たちは怯えています」

その夜結局、サラーハはご飯を食べることもなく眠りについた。結局翌日になって、妹の家族は全員が遺体となって病院に収容されていたという。トルコでは、4万人以上が亡くなり、シリアでも6000人の死者が確認され双方で5万人が亡くなっている。余震が続き、ひびの入ったビルはいつ倒壊するかもわからない。これから犠牲者がさらに増えるだろう。

トルコには、海外からの支援が駆けつけた。背中にロゴマークの付いた人たちが頑張って働いている。また、反体制派が支配するイドリブやアレッポ北部にもロゴマークを付けた人たちが海外から駆けつけているようである。しかし、サラーハのお母さんから送られてくる写真は、倒壊した家から追い出された人たちが粗末なテントで寝泊まりをしていて、背中にロゴマークの付いた人達は見えない。3週間たってもだ。アサド政権が支配するところに住んでいるというだけで、制裁の対象になってしまうのか? お母さんは、「私たちのところにはだれも来ません。配給があるという話も来ません」

建物にはひびが入っており、シリア政府の専門家がやってきてチェックして、倒壊する恐れがある建物は強制的に壊していっているらしいが、彼らの家にはやってこない。恐る恐る昼間は家にいて、夜は外で寝ている。「車のある人は、車の中で寝ています。私たちは、市場のほうに移動しました。今日はここで寝ます」というメッセージが届く。

誰も来ないんだったら、俺が行く! 若かったら背中にロゴマークをつけて駆けつけただろう。内戦により、分断された国家は誰が援助をするかということで政治的な思惑がうごめいている。背中のロゴマークもどちらにつくかによっては新たな内戦の火種にもなってしまいかねない。日本政府は治安の理由で退避勧告を出しているし、そんなところに入って行ったらパスポートを取り上げられてしまう。円安で飛行機代が高い! たとえ駆けつけても役立たずの老人でしかない。僕にはお金を集める能力もなくなってしまっていたので、悔しいが、わさわさする気持ちを抑えて、わずかなお金でもウエスタン・ユニオンを使って送ることぐらいしかできない。ウエスタン・ユニオンは、個人から個人にお金を送るという優れた送金システムなのだが、アメリカの会社故、シリアにお金を送ることは厳しく禁止していた。それが、今回の地震を受けて180日間の制裁を解除することになったのだ。しかも3月の頭までは、手数料をとらないというから、今のうちに送ってしまおう。

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