日本のおばあちゃんとパレスチナの坊ちゃん

さとうまき

僕は、昨年から80歳を過ぎたおばあちゃんのお世話というアルバイトを始めた。「いろいろ相談に乗る」という仕事だ。おばあちゃんは、敬虔なカトリック信者である立場から、イスラエルとパレスチナ双方にも深い友人がいるそうだ。英語、フランス語、ヘブライ語が話せ、そしてアップルのコンピュータをバリバリ使いこなしているからすごいのである。といっても後期高齢者であることには変わりなく、ところどころ補わなくてはいけないのが僕の仕事である。

僕としては聖書の話とかユダヤ人が何を考えているのかいろいろ教えてもらいたい。イスラエルは近年右傾化が進み、昨年暮れに誕生したネタニヤフ政権は、パレスチナを挑発しまくり2国家共存などはあり得ないような勢いだ。

まず1月3日に極右のベングビール国家安全保障相が神殿の丘を訪問しパレスチナを挑発。神殿の丘の訪問は2000年も第2次インティファーダ―のトリガーとなっており、イスラエル側の戦線布告といっていいだろう。

さらに1月8日には、ひどい行動にでる。国連総会が昨年12月30日に、イスラエルによるパレスチナ占領を巡り国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)に法的見解を示すよう求める決議を採択したことの報復措置として、パレスチナ自治政府の代理で徴収している税金のうち、約1億3900万シェケル(約52億円)の送金を差し止め、パレスチナ人によるテロ攻撃の犠牲者家族への補償に充てることを決めたというのである。

報復って、国連決議案出しただけで報復? 国際社会はこういうイスラエルのわがままで傲慢なやり方にこそ制裁措置を課すべきではないかと思ってしまう。

そして1月9日にはベングビールは、「本日、私はイスラエル警察に対し、テロ組織との同一性を示すパレスチナ解放機構の旗を公共の場で掲げることを禁止し、イスラエル国家に対するあらゆる扇動を止めるよう指示した」と述べてパレスチナを刺激する。

極右政党「ユダヤの力」の党首、ベングビール(46歳)とはいったいなにものだろう。イスラエルからアラブ人を追い出すことを信条にカハ党で若者のリーダーとして活躍していたらしい。カハ党は、ユダヤ系テロリストとつながっており、たびたびテロを起こしていた。のちに、反社会的としてイスラエルに非合法化される。ベングビールは弁護士となり、極右やユダヤ人テロリストの弁護をすることになった。若いユダヤ人からの支持が強いことが厄介である。

パレスチナ人の憎悪をあおっておいて、イスラエル軍は西岸へ治安部隊を展開し、今年になってすでに約30人の死者が出ている。パレスチナ側もシナゴーグを襲撃するなどして暴力が激化しているのだ。

そんな中、老婆が可愛がっているイスラエル国籍を持つアラブ人のおぼっちゃんが急遽来日することになった。本当は昨年の秋に来日することになっていたが、コロナがらみで、せっかく降りたビザも来日のタイミングを逃し、「早く来なさい」と促したら、急遽数日後に来日ということになってしまい、僕もお手伝いに奔走する羽目になってしまったのである。

そもそも何をしに来るのかよくわからなかったのだが、どうせなら現場の生々しい話を語ってもらうという報告会をして、恵まれないパレスチナの子どもたちにカンパを集めようということになった。そんな中、カンパならぬ寒波が急襲し、我が家の水道管が破裂し、修理に痛い出費となってしまった。悲しんでいるまもなく仕事がふえる。

報告会は、まず人集めに苦労する。修道院を借りてオンラインでも配信することにした。直前に申し込み者も増えて、何とか人が集まったものの生配信のトラブルが発生。老人の前で、こういうトラブルでもサクサクと乗り切り、かっこのいいところを見せたかったのだが、うまくいかずに精神的にかなり落ち込んだ。お坊ちゃんは、時間配分を考えずに話すので、時間もかなり長引いてしまった。それでも現場の話は貴重だった。

さて、ぼっちゃんはベツレヘムからお土産をたくさん買ってきた。老人の命令で、日本で売って孤児院に寄付するというのである。お金の清算をしていたらなんと30万円ぶんの雑貨を購入してきたことが判明。中には、こんなのが売れるのかと思うようなものもある。収益を出すためには、これを1.5倍くらいの定価にしても15万円の利益。簡単に売れればいいけど、その準備の手間暇とか考えてまたまた凍り付く。