ひつじ年

さとうまき

2014年は、「イスラム国」に翻弄された一年だった。2014年の6月からイラクでも、「イスラム国」の支配地域から避難してきた人たちの支援を続けている。彼らが冬を越せるように、避難所に毛布と給湯器を配ることになった。200枚の毛布を配るのに100家族を選んだ。小高い丘の上にコンクリートブロックを積んだだけの作りかけの民家に住み着いている避難民を訪ねる。彼らは、8月に逃げてきたヤジッド教徒たちで、民族浄化の危機に遭遇している。一家族に2枚の毛布を配るのだが、皆必死になってもらおうと集まってくる。逃げるのもそうだし、逃げた先での生活は命がけだ。

羊が30頭丘に上ってきて、私たちの周りをうろうろしている。きくと、この羊たちも一緒にイスラム国から避難してきたらしい。恰幅のよいお母さんが赤ちゃんを抱っこしながら話してくれる。
「イスラム国が侵攻してきたのでシンジャール山に羊をつれて逃げました」

その時は、70頭いた羊も、山を越えて一旦シリアの国境を越えてからイラクに戻ってきたときは30頭に減っていた。逃げ遅れた羊飼いは、羊と一緒にイスラム国に連れ去られたという。
「羊と一緒に国境を越えて逃げてきたのですね?」
「はい。この羊たちは、家族同然ですから」
「あ、でも、食べちゃうんですよね?」
当たり前でしょと言わんばかりにおばちゃんは豪快に笑い飛ばした。生きていくことのむずかしさとしたたかさを知り尽くした難民たち。

2015年.ともかく、ひつじ年がやってきた。平和な年になりますように。

アルビル(北イラク)にて