新しい古い家

植松眞人

 町の不動産屋が紹介してくれた一軒家は、築後五十年以上は経っていた。外壁の色はくすんでいたが、一歩屋内に入ると柱や床など家の基礎を固める部分が堅牢なのが気に入った。逆にこんなに丈夫そうでいい家なのに長く借り手が付かなかったということに違和感を覚えるほどだった。

 まだ地方にいる妻には体の良い一軒家を見つけたとしか伝えていない。妻は見栄えを気にする方なので、三歳の娘と一緒に上京してくるまでの間に少しずつリフォームをするつもりでいた。タイムリミットは半年。仕事も閑散期に入るのでちょうどいい。

 そう思って契約を交わし、仕事の都合で先に入居したが、リフォームはまったく進んでいなかった。あとひと月もすると妻と娘がやってくるというのに、まだ寝室以外はカーテンも吊していない。

 この家の間取りは4LDKで、三人家族には十分に広いリビングがあり、しばらくは娘と一緒に使うつもりの寝室があり、二階には私と妻が仕事部屋として使うつもりの二部屋がある。妻はゆくゆくそのどちらかを娘の部屋にするつもりだと言っていたが、おそらく私の部屋を娘の部屋にするつもりだ。私はリビングでもどこでも仕事ができるタイプなので自分の部屋はなくても問題はない。

 ただ、困っているのはいまだにその二階の自分の仕事部屋に入っていないことだ。私には子どもの頃から入れない部屋がある。生まれた実家の祖父の部屋がそうだったし、旅行先の宿でも部屋を変えてもらったことが何度かある。

 無理に入ってそこで幽霊を見るというような霊能力は私にはない。しかし、気持ちに抗って部屋に入ってしまうと、すぐに出たとしても数日は眠れなくなる。そして必ず小さな怪我をしたり熱が出たりするのである。(了)