学校までの道は真っ直ぐで、右にも左にも曲がらずに続いている。二車線の車道があり、両脇に広めの舗道がある。銀杏の並木があって、今はまだ葉っぱが青い。わたしは青い銀杏の葉っぱが大好きで、時々立ち止まって見上げてしまうことがある。
でもいまはセイシロウとアキちゃんへの苛立ちでガサガサとスニーカーの底を擦りながら歩いている。わたしはいつもスニーカーの底を擦って歩くクセがあり、そうならないように気をつけて歩いているのだが、いまはそんなことに頭がまわらず、学校に着くまでに穴が開いてしまうのではないかと思うほど、靴底を擦りながら歩いている。もしかしたら、右の足と左の足の長さが違うのかもしれない、とわたしが小さなころパパが言っているのを聞いたことがあるけれど、気をつけして立っている時にどちらかに傾いているという気持ちはしない。だからきっと、片側の靴底だけがどんどんすり減っていくのはわたしの歩く姿勢が悪いからだと思う。ずっと前にママが、世の中を斜めに見ているから、身体が斜めになって片方の靴底だけすり減ったりするんだと言っていたけれど、なんとなくそうかもしれない、と思ったりもする。
だから、いつもは意識して、ほんの少しだけ身体を起こして歩くように気をつける。そうすると、靴底がアスファルトを擦る音が少しだけマシになるような気がする。そんなことを考えていると、ちょっと気持ちが落ち着いてきた。歩く速度を落として、身体を少し起こして、よし、今日これからのことに集中しようとした、その瞬間だった。後ろから、肩を掴まれた。驚いて振り返るとセイシロウだった。
いつも学校で大人しくて、誰とも話さずぼんやりとして見えるセイシロウが、いまわたしの肩を意外に強い力で掴んでいる。そして、わたしはそのことにかなり驚いていて、さっきまでの腹立ちのようなものを急激に思い出している。セイシロウはそんなわたしをじっと見ている。
「なあ、なんで蹴るねん」
セイシロウが口を開いた。
「腹が立ったからだよ」
わたしが答えるとセイシロウは
「藤村はおれのことが好きやったのか」
と驚き顔で言うのだった。
わたしは、藤村のその言葉に驚いて声が出ず、ただ呆然としていたのだが、このままだとわたしが図星を指されて恥ずかしくて声も出ないということになってしまう、と焦って、もう一度、藤村の足を思いっきり蹴り上げた。
藤村はわりと大きな声を出して、私の肩から手を離すと大げさなぐらいに身体をくねらせて倒れた。わたしは、倒れたセイシロウの脇に立って、「誰がお前のことが好きやねん。むしろキショイ。むしろ吐きそう」
そう言うと、わたしが再び黙って歩き出し、学校へと向かった。すると、後ろでアキちゃんが呼ぶ声がした。
「よっちゃん、ちょっとこいつ締めなあかん」とドスのきいた声で言う。私が振り返ると、アキちゃんは倒れているセイシロウの上にまたがっているのだった。
不思議なもので、誰かがとんでもないことをしていると、さっきまでの腹立ちが霧散してアキちゃんを止めなければという気持ちになり、わたしは二人のところへと引き返した。
アキちゃんの加勢に戻ってきたと思ったのか、セイシロウが「なんや!」と叫びながら身体を起こした。そのタイミングでアキちゃんがひっくり返った。ひっくり返ったアキちゃんの身体につまずき、わたしは二人の身体を覆うようにうつ伏せに倒れた。わたしたちは三人で片仮名の「キ」という字を書いているように銀杏並木の端っこでしばらく倒れたままになっていた。
同級生たちはそんな私たちが見えないかのように、うまく避けながら学校へと歩いていった。(つづく)