天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず 福沢諭吉
(福沢諭吉『学問のすすめ』)
『学問のすすめ』は1872(明治5)年から1876(明治9)年にかけて全17編の小冊子として出版されたもの。各編10枚内外のパンフレット形式のもので、1880(明治13)年に合本として出版された。合本の序によると初編発行以来、およそ70万冊も売れたという。明治を代表するベストセラーだといえよう。しかし、「本当にこの本を通読した人が現在どれだけあることか、ことに若い人にどれだけあるかというと、存外少ないのではないかと思われる」(伊藤正雄・校注『学問のすゝめ』旺文社文庫)。伊藤正雄がそう書いたのは1967年のことだが、今もその状況は変わっていないのではないだろうか。
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福沢は本書〔『文明論之概略』〕の「日本文明の由来」の章では、右の命題を「自由は不自由の間に生ず」とも表現しています。自由の専制ーーつまり、ザ・リバティーーは自由ではないという逆説ですね。自由はつねに諸自由(リバティーズ)という複数形であるべきで、一つの自由、たとえば報道の自由が、他の自由、たとえばプライヴァシーの自由によって制約されているーーまさにそのいろいろな自由のせめぎ合いの中に自由があるのだ、というわけです。 丸山真男
(丸山真男『「文明論之概略」を読む』(上)岩波新書)
『「文明論之概略」を読む』は、福沢諭吉『文明論之概略』をテキストにした読書会の記録が元になっている。丸山の指摘は、以下の福沢の文章を受けてのもの。
「故に単一の説を守れば、其の説の性質は仮令ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず。自由の気風は唯多事争論の間に在りて存するものと知る可し」(『文明論之概略』)