インドネシアの新札に見る伝統舞踊の図柄

冨岡三智

この8月に2022年に発行される新札の図柄が発表され、各裏面には各地の舞踊、風景、インドネシア固有の植物や動物などの図柄が組み合わされて描かれている。というわけで、今回はその舞踊の図柄の紹介。紙幣は7種類で、舞踊の図柄は以下の通り。

(1)10万ルピア札…トペン・ブタウィ(ジャワ島・ジャカルタ)
(2) 5万ルピア札…レゴン(バリ島)
(3) 2万ルピア札…タリ・ゴン(カリマンタン島・ダヤク族)
(4) 1万ルピア札…パカレナ(スラウェシ島・マカッサル族)
(5) 5千ルピア札…ガンビョン(ジャワ島・スラカルタ)
(6) 2千ルピア札…タリ・ピリン(スマトラ島・ミナンカバウ族)
(7) 1千ルピア札…タリ・ティファ(パプア)

インドネシアは「多様性の中の統一」を国是とするので、舞踊もスマトラ、ジャワ、カリマンタン、スラウェシ、パプア(ニューギニア島)というインドネシアを代表する大きな島から万遍なく選ばれている。バリ島は小さいが、インドネシア文化を語る上では外せない。

(1)はジャカルタの舞踊。ブタウィはオランダ植民地時代以来、港市バタビア(=ジャカルタ)に集住してきた人々のこと。ブタウィの舞踊や衣装は中華などの影響を受け国際色豊かな雰囲気が特徴。トペンはインドネシア語では仮面という意味だが、ブタウィでは芸能や芝居の意味で、仮面とは関係がない。

(2)バリ舞踊のレゴンはこの中で最も有名な舞踊だろう。バリ・ヒンドゥー寺院で発展した舞踊。

(3)タリ・ゴンは東カリマンタンのダヤク族の舞踊。カリマンタン島はインドネシアにおける呼称で、ボルネオ島に同じ。ダヤク族はカリマンタン島の先住民のうちイスラム化されていない人々のことで、「森の民」とも呼ばれる。タリ・ゴンでは女性が両手に鳥の羽を扇のような形に持って、鳥の動きを模して優美に踊る。地面に伏せたゴン(銅鑼)の上にのって踊るのでこの名がある。サンペというギターに似た楽器で伴奏するのだが、どこか懐かしいような、のんびりした音がする。

(4)パカレナは南スラウェシのマカッサル族の舞踊。マカッサルといえば海洋交易で栄えた地域。女性が扇を持って、抑制的でゆっっくりとした動きで踊るのだが、音楽の方はそれとは対照的に激しく、2台の太鼓の音と甲高いチャルメラ笛の音が鳴り響く。私には神楽の音楽のような雰囲気にも感じられる。

(5)ガンビョンはジャワ島中部の、スラカルタ様式の民間舞踊。

(6)タリ・ピリンは母系社会で有名なミナンカバウ族の舞踊。磁器の皿(ピリン)を両掌にのせて踊るのだが、踊れる人に聞いたところ、子供の頃から踊っていても一度も落としたことがないと言う。ちょうどよい重さの皿を使うのがコツらしい。最後に皿を割って床にまき、その上で素足で踊るのも見たことがある。

(7)パプアはニューギニア島の西半分を占め、他のインドネシア地域とは異なりメラネシアの方に含まれる。腰蓑をつけ、ボディペインティングをした格好を見るとそのことを強く感じる。ティファは脚付きグラスのような形をした片面太鼓のことで、踊り手はこの太鼓を手に持ち、リズムに乗って延々踊る。