来し方テロ事件〜インドネシア

冨岡三智

「イスラム国」の動向がとても気になっている。インドネシアでバリ島の爆弾テロ事件などを起こしてきたイスラム過激派団体:ジェマ・イスラミア(JI)の精神的指導者とされるアブ・バカル・バシル受刑者も、「イスラム国」支持を呼びかけている。インドネシアにもこれからいろいろと影響が及ぶかもしれない。テロが活発だった2000年代始め、私はインドネシアのソロに滞在していた。自分の経験から少し思い出してみる。

2000年のクリスマス・イブに、JIのメンバーによりインドネシア各地のキリスト教会で同時爆破テロ事件が起こる。この日、私は外国人留学生(欧米出身)の友達と10人くらいで夕食に出かけたのだが、その後、日本人以外はみな教会のミサに行ってしまった。2000年代に入ってから全国で教会爆破事件は頻発し、ソロでも起こったことがあるから私たちは止めたのだが、「教会で死ねたら本望だ」と彼らに返されてしまった。テロも怖いが、本望と断言できる欧米人の宗教心も畏敬すべきものだった。彼らの行き先は無事だったけれど、テロが起こるたびに真っ先にこのことを思い出す。

2001年、9.11事件が起こる。これはJIとは関係がないが、ソロでもデモが頻発した。メインストリートのS.リヤディ通り沿いをパサール・ポンの辺りから郵便局まで、ウサーマ・ビンラーディンの写真を掲げた人で埋まったこともある。郵便局前のロータリーでは、ちょうど車の流れが滞る所なので、デモがよく行われていた。私はこの近くに住んでいたので、デモがあると音で分かるのだった。9.11の1か月後、インドネシア人舞踊家(男性)を連れて日本に行く。滞在中に警察から職務質問され、舞踊家の写真入りの公演ちらしを見せて納得してもらえたことがある。顔写真入りチラシはこういう時に役立つものだと悟った。関空で出国手続きをする時には、インドネシア人だけ別の列に並ばされた。9.11関連なのか、明らかにインドネシア人をマークしている。前述の警察官にもインドネシア人との関係をしつこく聞かれた。もしかしたら、私もテロリストの手引きだと思われたのかも知れない。

2002年10月、JIのメンバーによりバリ島爆弾テロ事件が起き、緊急日本人会が開かれる。インドネシア人も外国人もバリなら安心だと思っていただけに、かなりショックな出来事だった。1998年の暴動の時のように混乱するかもしれないから、各自逃げられるよう心構えをせよと訓示がある。私はその会合に自転車で出かけていたのだが、帰りにパンクしてしまい、仕方なく自転車を押して歩く。PKU病院の前までさしかかると、何だか雰囲気が異様だ。警察トラック(幌掛けのトラックの荷台に、警官が10人くらい座れるようにベンチがついたもの)が停まっている。道端には警察官がずらっと並び、一斉に私の方を睨む。訳が分からずに下宿に戻り、テロ事件の情報をネットで探していたら、JIのバシルが、その晩にソロのPKU病院に入院したと分かる。どうやら私は、バシル入院直後のピリピリした雰囲気の中に、自転車を押してのこのこ現れたようだ。しかも夜の9時か10時過ぎ、普通のインドネシア人女性は1人で出歩かない時間帯に。あまりにも間抜けなタイミングだ。翌朝、大学に行く前にPKU病院の様子を見に行ってみると、果たして、バシル入院を知った人たちが病院の前の道に押しかけ、1ブロックくらい人で埋まっていた。

その後、インドネシア国内の芸術イベントに招聘された海外団体の渡航自粛が続く。私も、楽しみにしていた海外団体の公演がキャンセルになって、がっかりしたことがある。観光客によるチャーター公演が多かったマンクヌガラン王宮でも、ぱったりとチャーター公演が途絶えてしまった。こういう事態に対して、過剰反応だ!ジャワは危なくない!と怒る芸術関係者も少なくなかったが、1998年の暴動以来、教会爆破事件やらテロやらが続いてきたから、インドネシアに一度も来たことのない外国人が怖がるのも無理はなかったと思う。安全であるというイメージは観光立国にとって何よりも大事なのだ。

2003年8月、JWマリオット・ホテル爆破テロ事件がジャカルタで起こる。この年の2月に私は留学を終えて帰国していたが、7〜8月にまたインドネシアに来ていた。ジャカルタでマリオットの近くの安宿に泊まって、毎日その前をタクシーで通っていた。私がジャカルタからソロに移った翌日、テロ事件が起きた。本当なら、私はその日にジャカルタを発つ予定だったので、知人からの安否確認の電話でテロを知った。間抜けなことに、私は1日間違えてチケットを買っていたため、テロの混乱に巻き込まれずに済んだ。

その後もしばらくJI関係のテロがインドネシアで続いた。普段は気を付けるようにと言われても、気を付けようがないのがテロだ。それでも、いつでも、何か起こり得ると考えて行動するしかないのだと思っている。