蒸し暑い日が思ったよりも長く続いている。もちろんだが、この季節は苦手だ。
空間がじっとりと重たく、体中に汗がにじむ。
風を通すために網戸にしてあるはずなのに、通り抜けずに停滞しているのはなぜだろう。横から横へと流れてはくれず、上からじんわりプレスされているような、降りかかって溜まって、この部屋全体を包み込んでしまっているのではないかと思うぐらい、重苦しい。
湿気のせいで、歩くたびに足の裏がぺたぺたと板間に張り付く。ふだんよりも倍遅い自分の動きの気配が部屋中に点々と残っているみたいだった。
この気候のおかげで食欲が失せている毎日だけれど、唯一食べたいと思えるのは酸っぱくて辛いものだ。
冷蔵庫に眠っている鶏ひき肉を生姜とニンニクで炒め、刻んだ玉ねぎ、ししとう、パクチーを加える。紹興酒、鶏ガラの素、ライムリーフやレモングラス、唐辛子なんかを適当に放り込み、ついでライムをたっぷり絞ればできあがり。これをレタスで包んで食べるのに最近はまっている。これを食べると大体元気がでるのだ。
食後のお酒をビールか焼酎ハイボールかで迷ったところ、この時期にぴったりのウイスキーがあることを思い出した。
オールド・プルトニー12年は、ストレートで飲むと塩っぽさとオイリーさが目立つけれど、ソーダで割ったとたんすっきりした味わいになって、とても飲みやすくなる。すっきりしているのに塩気も深みもちゃんとあって、ぱちぱち弾けるソーダも気持ちよく、こんなじとじとした日には最適なのだった。スコットランド最北端にあるプルトニー蒸留所の人たちにいつかお礼を言いたい。梅雨にぴったりのウイスキーなのです、と。
じゃわじゃわと鳴き続ける蝉の声と湿気に包まれながら、潮風のような味のプルトニーハイボールを楽しむ。こうして何とか低気圧とうだるような暑さをやり過ごしたい。