雨とそらまめ

璃葉

白い雲に覆われた空、その色に引き立つように桜の木の葉がいつもよりも鮮やかに、グロテスクに呼吸している。雨の時期がすぐそこまでやってきているのだろうか。

雲に閉ざされた世界と湿った空気のお陰で身体は何時よりも重たく、やる気が出ない。外から聞こえる草刈機の唸るような低い音がさらに気を滅入らせた。布団の中の居心地が堪らなく良くて、一日中包まっていたいところだったが、なんとか起き上がる。

読み直そうと思いながらしばらくテーブルの隅に放りっぱなしだった「初版 グリム童話集」のページをめくり、「青髭」を読んでどんどん気持ちが落っこちていく。なぜ、こんなにも気の沈むようなものを自ら吸い寄せているのだろうか、と不思議になる今日の始まりである。こんな日は家の中でいつまでも躙るように過ごす手もあるが、手っ取り早く気持ちを切り替えるには用事がなくても出かけるのがいい。緑だらけの鬱蒼とした遊歩道を抜けて、商店街まで歩く。途中、ぬか漬け屋の女将さんと立ち話をして、ふらふら八百屋へ向かうと、一番に目についたのは軒先のカゴに山ほど積まれたそら豆だった。見た途端、自分がこれをとてつもなく欲していたことに気付く。そういえば、グリム童話集にも「旅に出たわらと炭とそら豆」なんて話があった。そら豆になぜ黒い筋があるのかというと、わらと炭と旅をしているそら豆が道中ではじけてしまい、通りがかりのひとりの仕立て屋が黒糸で縫い合わせたからなのだそうだ。

夕方、網戸の外から小粒の雨の降る音がかすかに聞こえる。湿った風が部屋を通り抜けていくなかで、茹でたそら豆、きゅうりのぬか漬けをつつきながら、麦酒を飲む。黒い糸ならぬ緑の糸で、うまくはまっていない身体と心を縫い合わせられたらな、と想像してみる。