日光の山へつづく道には雪が降りつもり、林の木々 -松や白かば、ハルニレなどの幹や枝には、飾りつけをされているかのように、雪がはりついている。林のむこうに連なる山の頭もすっかり白くなっていた。
今日も星を見にきた。
午後3時すぎの陽射しはあたたかく、風もほとんどない。
太陽の光が雪道に反射して、あたりがいつもより明るい気がする。
車をゆっくり走らせていると、林道のわきにサルがいた。こちらをじっと見つめたあと、すばやく木によじ登っていった。
赤色のおしりが、枝のすき間からちらりとみえた。
星を見るためのいつもの場所に到着すると、日は暮れはじめていて、東の空に光る金星がさらに際立っていた。
まわりの風景すべてが青白くなっていく。そよぐ風は静かで、頰に染み込んでいくように、つめたい。
とっぷりと日が落ちて、明るい惑星や恒星が輝くなか、林の奥へとのびる道の、両わきの雪肌から、ところどころ笹の葉が顔をだしていることに気づく。
そういえばこのあたり一帯は、隈笹の原っぱなのだ。春の夜に歩いたときは、月の光に照らされた笹の葉がさわさわと夜風にそよいでいた。
ぶ厚い雪をすこしだけかき分けると、若葉の青々とした色ではなく、黄味がかった葉が顔をだした。寒さで色素が抜け、白い縁取りが目立つ。隈笹、という名のとおり。
5月に飲んだ笹の葉茶のことも思いだした。あのときは白い隈取りがない若葉をいくつか摘んで、小型バーナーを使ってその場で煮出した。
山のなかで飲む「即席 笹の葉茶」はおいしかったが、焙じ茶をつくるときのような手順を踏んで煮たら、もっとおいしいのではないか。
雪から出してしまった葉を、手ぬぐいにくるんで持ち帰ることにした。
葉を洗って乾燥させたあと、ハサミで細かく切り、自称ほうろく鍋に入れて火にかけると、部屋中に芳ばしい香りがひろがる。
寒い部屋が、これだけであたたまったような気がした。茶葉店からただよう匂いそのままだ。
とろ火でしばらく煮ると、湯が透き通った淡い黄色になったので、一口飲む。おいしい。
まろやかな甘みがひろがり、そのあとはすこしの苦味と深みが残る。何となく春を思い出すのは、笹の葉で包んだ桜餅と味が似ているからかもしれない。
煎った残りの葉は、保存するための容器がみつからなかったので、ひとまずタジン鍋に保管した。
数日たって、ふと、ふたを開けてみた。心地よい香りがちゃんとのこっている。
つぎは、青い若葉を摘みにいってみよう。
そう思うと、雪どけの春を待つのもたのしい。