131 遺さない言葉(2)ことし

藤井貞和

 葉裏のキーボードを、
 かぜがさわります。
 なんだか通信したそうにして、
 メールがやってくる。

 葉裏のパソコンが、
 かたかたと打っている、それが、
 ここから見える。 
 葉隠れの術という、ははは。

 せつじつなメールが、
 交わされている。 「基地」
 を「墓地」と打ち間違えている。

 返信したそうに、
 しばらく鳴って、
 動かなくなる、あなたはだれ。

(フリーズ、ことし。誕生日のうたがどこからか流れる、あした。だれかの書き損ないは、わたし。わたしの書き直しは、あいつ。あいつの書けなさったら、おいら。おいらを書き終えるえんぴつ。パソコンが内蔵されていて、書けなくなる日のプログラミング。火を継いで書きましょう、知らないなかま。おやすみのキス。)