178 南残の人々

藤井貞和

せんらん(戦乱)の火を、『太平記』って、

たいへい(泰平)の世にむかう、それはそうだけど、

あいつは「なぜ」と問いながら、

南河内城に入市(にゅうし)する、五十年まえ、

フィールド・ワーク「太平記、なぜ」。

手にとる「じんのうしょうとうき」(大系本)は、

国粋主義でばっちいし、(二度は読むな)

声のかぎり、子供が求めて斃れた歴史。

最悪の現実が、夕日とともにやってきたのは、

とうぜんなんだ、などと言っていた南残の人々。

あざわらう武者のあずき色の小便を分析して、

求めたのは不眠の亡霊。 生まれ継いだ、

残狼の仔だったよな、死して守り、

波しぶく南残の城、ふたたびは見ず。

あいつは偽書のやみから噴き上げる純白の火を、

いとしいもののようにふたたび殺す

(一九七〇年代に消えたまぼろしの若者たち。第二の現代詩みたいな詩があるならば、哀悼したい。第二の廃墟を建てて、入市する。第二の靖国神社をぶっ建てて、かれらを祀る。)