200 灰よ

藤井貞和

灰よ、 「はい」。
よい返辞だね、どこから声を挙げてるんだ。
「どこ」。 ああ、どこね、そう、どこなんだ。
きみはなに者?
「なに」。 うん、きみはなにだ。
「なにではない」。 そう、なにではないんだ。
Nothingだね、きみ。
「詩はだれである。 かつ、
だれではない」。
なるほど、Nobodyだ。
「なぞ」。 
灰のなぞ?
「はい」。 返辞はよいけど、
どこへ行く、灰。
「どこ」。 そうなんだ、どこである。
深いなぞだね、灰の正体。
「灰って、背理」。 それなんだ、
Nobodyがゆく。 きみの背理だ。
「ある」。 そう、あるだけなんだ。
「はい」。 うれしげにきみがゆく。

(「きみ」というのはだれだろう、「だれ」。だれである。疑問符がいよいよ崩壊する。)