206 メリー・クリスマス

藤井貞和

私の貧しい友だちの狸。
タクシーが置き去りにする、
眠る狸の死体。 自分の毛皮を、
買いもどそうとした友だち。

身を包む暖かさを取り返そうとして、
タクシーから投げ出された、
冷たい路上の狸。 だれに看取られることもなく
死体のような私の友だち。

と、子狸が私に書いてよこしたので、あるいて探した挙げ句、
とある剥製店で見つけたので、買いもどして、プレゼント、
子狸に送りました。 生きて帰りはしないであろう。
私の悲しみの聖夜が暮れようとしておりました。
   
あれ! 大狸、子狸がそとを歩いておりましたので、
呼び止めますと、狸ども、からから笑うて帰ってゆく。
毛皮を売って、かれらは暖かい冬を迎えることでしょう。
たぶん、私はよいことをしたのだと思います。

(狸の勝ち、化かされたのは私。昔、校舎の隅を、尾のふさふさした敏捷な生きものが駆け抜けたのを、居合わせた学生たちが、「たぬきかしら!」「いたちかも!」「いぬみたい!」と評定して、イタヌチキと名を付けていました。アナグマだったと思います。謹賀新年。)