豊多摩の、
姿見ず橋。 橋占(はしうら)は、
あなたを探す。
のこした思いよ、
姿になって、
もう一度、ことばをかわそうよ、
われら。
十月の追悼は、
十一月にさしかかる。
橋よ、
かなわぬのか、
姿にめぐりあうことは。
ひびわれてゆく時間のこちらがわへ、
もう一度、わたりたい。
あなたに遇うかもしれないから。
上人をひとり、
橋柱に立たせる追悼の式。
いいえ、
腐敗しきったわたしのあたまでも、
もういちど、もう一回、
俗物の擬宝珠(ぎぼし)を建て直したい。
袖モギさんがやってくる、
橋のうえ。
とおしてやれ、転ばぬように。
袖をモイで、見えない鬼神のために、
そっと置く、橋のうえ。
姿ほのかに、
遇おうと思うのかい。
あなたはやってくる、橋の、
あっちから。 仮面よ、
霧のおもては過去へ消える。
それが願いでしたね、われら。
(架空の橋です。「姿見ず橋、1」は『人間のシンポジウム』思潮社、2006。)