216 姿見ず橋、2

藤井貞和

豊多摩の、
姿見ず橋。 橋占(はしうら)は、
あなたを探す。
のこした思いよ、
姿になって、
もう一度、ことばをかわそうよ、
われら。

十月の追悼は、
十一月にさしかかる。
橋よ、
かなわぬのか、
姿にめぐりあうことは。

ひびわれてゆく時間のこちらがわへ、
もう一度、わたりたい。
あなたに遇うかもしれないから。

上人をひとり、
橋柱に立たせる追悼の式。
いいえ、
腐敗しきったわたしのあたまでも、
もういちど、もう一回、
俗物の擬宝珠(ぎぼし)を建て直したい。

袖モギさんがやってくる、
橋のうえ。
とおしてやれ、転ばぬように。
袖をモイで、見えない鬼神のために、
そっと置く、橋のうえ。

姿ほのかに、
遇おうと思うのかい。
あなたはやってくる、橋の、
あっちから。 仮面よ、
霧のおもては過去へ消える。
それが願いでしたね、われら。

(架空の橋です。「姿見ず橋、1」は『人間のシンポジウム』思潮社、2006。)