221 良心・2

藤井貞和

現代詩は しかしたいていの場合に、大魔王との対立を避けて、
裏通りの日常生活の悪人、微小な悪魔たちを自分のなかに飼うことをするから、
大きな文学になりにくいのです。

わたくしの思いは「大きな悪魔」そのものになく、「微小」な、
それらにとどまるのでもなく、その《あいだ》に定めることになりましょう。

とそこまで述べたとき、うしろの正面がひらかれ、大きな鬼が姿をあらわしました。
人食い鬼で、わたくしをむしゃむしゃ食いはじめました。 肉も、骨ものこりません。

〈藤井よ、おまえはきょうから鬼である。 これを食らえ。〉 骨と肉とを吐き出して、
わたくしに食わせました。 なんだ、私の骨と肉とであります。

(良心なんて、不味(まず)い食事ですよ。それでもあなたは食らいますか。皿を新しくして、おいしい料理へと作り替えませんか。消しましょう。)