深夜なんとか

大野晋

私の世代にとって深夜の放送と言えば、ラジオの深夜放送か、テレビの深夜テレビで、どちらも親の目を盗んで聴いたり、見たりするものだった。特に、今よりも放送の自主規制も緩く、おおらかな時代だったので、テレビの深夜放送には女性の裸がでてくるのがお約束だったけれど、そもそも、テレビそのものが一部屋に一つなどという時代でもなかったので、思春期の男の子にとっては、いかに親の目を盗んで見るのかというのが課題だった。

時代が平成になり、いまや深夜のテレビの主役は女性からアニメに代わっている。ということで、ふと駅で目に付いた雑誌の特集は日本のアニメについてまとめたものだった。日本のアニメが注目されているということでいくつかの例が挙がっていたが、まあ、他のケースでもよくあるように寄せ集めの記事で、アニメ自体についても、テレビアニメも映画も一緒にあつかったものでとても現状がわかって書かれているようには思えない。

ということで、まず、映画から考えてみよう。邦画の興行成績でアニメの成績がいいのは確かだと思うが、リストに挙がっていた邦画タイトルベスト10の全ては、少しの知識があれば、アニメもしくはコミックを原作とした実写であって、完全なオリジナルの実写、もしくは小説を原作にした実写映画すらベスト10に入っていない。いや、正確に言うと唯一入っているのは「シンゴジラ」なので、傾向は変わらない。おそらく、邦画の観客層の問題がそこにあって、アダルト向けというよりもジュブナイル向けに邦画が特化しているという方が正しいように思えた。

現在の書店の売れ筋でも似たような傾向がある。文章の本、要は小説では一時流行した時代劇やライトポルノは影を潜め、いまはジュブナイルのミステリーやSFが活況を呈している。まあ、電車の車内で皆がスマホの画面を見ている現状では既存のメディアである本を大量消費するのはジュブナイルとそのコンテンツを愛する大きなお友達というところなのだろうか? 要はアニメが活況なのではなく、コミックやアニメ、ライトノベルといった分野しか売れていないというのが現状か。

一方、テレビの状況はちょっと違っていて、普通に生活している限り、テレビのプログラムではアニメーションが増えているようには見えない。これは1990年代までのゴールデンタイムがアニメだらけになった状況とは違っている。現在のアニメ放送は深夜帯やローカルネットの放送局を中心に繰り広げられている。昔のアダルト放送が今はアニメ放送になった感じである。しかも、比較的質の高い作品を1クール、もしくは長くても2クールと言った短いサイクルで取り替えながら流すというのが特徴だろう。日中に流しても視聴に耐えると思えるプログラムが深夜帯に流れているのだ。ただし、昔の深夜族のように夜更かしする人間が多いのではない。そこはハードディスクレコーダなどを利用したタイムシフト視聴が主だと考えるのが妥当である。最近では、それに加えて、ネット配信という店舗を持たないレンタルビデオの形態が加わっている。そう。車内でスマホを見ている何人かはこうしたネット配信でアニメを見ているに違いない。