斜め格子

高橋悠治

青柳いづみこと『ペトルーシュカ』連弾版を練習している キュビズムの多面体 音やパターンの伸縮や切断と組みかえ 4本の手の位置が入れ替わる リズムや質感の思いがけない変化 断続は非周期だが機械的な拍にもとづいている 『春の祭典』連弾版は大きなブロックの交代だった

5月の終わりにはストラヴィンスキーの『ピアノソナタ』(1924) と「イ調のセレナード』(1925)を浦安音楽ホールで弾く ディジタル(指)な運動 みかけはバロック 機械的な長いフレーズのなかの対斜や半音移動 近代主義の裏に漂う喪失感と儀式性か

練習で反復は避けて可能性をためす 変化の枠を崩し 響きの止んだ後に自由な空間を見渡す 音から遠ざかり 複雑を単純に還元しないで 不規則に分節する 動物の跳躍 身軽さ

作曲は『散らし書き』から『移りゆく日々の敷居』へ 映像と短歌とピアノの音 吉祥寺美術館の北村周一個展『フラッグ《フェンスぎりぎり》一歩手前』の関連コンサートのため はためくうごきや斜め格子 まばらに散る音 あしらう音 からまる線 残る指をふちどる点 揺れ動き 波打つ空間