陰陽・四大・偏差

高橋悠治

 [生き物文化誌学会「ビオストーリー」vol.5, 2006に掲載された文章の改定]

古代人は考えていた
人間がうごかすことができない ものごと
いつ出会うかもしれない それらを徴として

日が沈むと 創造の夜が来る
陰は暗い空間 保存の状態 これを母とし
陽はひらかれる時間 離れていく運動 これを父とし
すべては変わり 崩れていく
陰の1/8老陰は変質して 陽になり
陽の3/8老陽は 陰になる
あわせて 全体の5/8が陰に変わる
見上げる空に
太陽は星々の極 月は惑星の極

そして地上では
土は堅く また柔らかくひろがるはたらき  
水は流れ あるいはまつわりまとまるはたらき
火は熱く それともぬるく ならしととのえる
風は うごきをささえ つよめるエネルギー
それら四大は 身体のなかにも外にもあって
むすびつき 切り分けられない
さらに色があり 香りがあり 味があり 養分がある
もののなかで それだけを取り出すこともできず
ものの外に漂っても そこから離れない

暗い空間を落ちる雨の粒のように
見えない原子の偏りが 飛び散り 引き合って
たえず作られ こわれていく世界
その一瞬にかがやく結び目の網が 
それは見えないこの世界のはたらきの 見えている徴