製本かい摘みましては(125)

四釜裕子

年末は年に一度のデットストックダンボールの開封。2016年も捨てられなかったものに革漉き用エプロンがある。製本を習っていたころに作ったものだ。仕事帰りに通っていたので最初はふつうのエプロンを持参していたのだと思う。ある時期から革漉き作業が続くようになり、これがもう、いつまでたっても終わらなくて、苦手だったせいもあり袖口が屑で汚れるものだから、渋谷駅前の生地屋の地下で厚手の木綿地を買い、肩の部分のない袖を付けたエプロンを作ったのだった。そういえばと思い当時作っていたホームページを検索したら、あった、あった。「96秋冬エプロン」、〈割烹着のような形が理想的、でも割烹着ってのもなぁ。(略)全て直線裁ち、脇の下のところに袖をくっつけただけ。(略)今後のバージョンアップに期待〉だって……。バージョンアップは一度もせずになんと20年。

「東京製本倶楽部会報」74号(2016.12.7 編集・制作 渡辺和雄)には、会員の方が作った道具が紹介されていておもしろかった。まずは中野裕子さんのボルトとナットで作った六形柱形のおもり。きっかけはご主人が拾ってきたボルトとナットを手にしたときに〈その重さとかたちにビビッときた〉ことという。柔らかい生地でくるみ、ご自身の腕力に合うおもりを作って愛用しておられる。もうひとつは、中尾エイコさんの「ガリガリちゃん」。輪にした革に指を入れてパッセカルトンの支持体となる麻紐をほぐす道具で、ほぐす部分は〈ホームセンターで見つけた用途不明の商品を解体〉したものというから愉快だ。たくさんの生徒さんがいらっしゃるようで、〈なるべく体力を使わず、楽しく、失敗が少なく作業ができるように〉、道具や方法をさまざま改良されておられるそうだ。

山崎曜さんのアトリエにもお手製の奇妙な道具があっちこっちにあった。さまざまな用途を持った定規替わりの木片や商品化したかがり台はもちろんのこと、試作中のものや作ってみたけれど失敗だったというものもころがっていて、その話をうかがうだけでも抜群に面白かった。アイロンに金属ボールを合体させたようなもの、あれは未完成だったと思うけれど何に使おうとされていたのだったかな……。ずっと手伝っている和光大学附属梅根記念図書・情報館主催の製本講座でも、担当の方々の道具やだんどりのバージョンアップを楽しませてもらっている。ちょっとだけボンドを使う回のときにいつものボンド皿の底にきれいにカットした段ボールがひいてあったときは「何?」と思ったが、終わってみたらなるほど! 洗う手間いらずだ。こういうときの得意気な顔って、いいものです。