松本工房さんのサイトの新刊案内に、花びらが開くような造作のある本の写真を見つけて注文した。大きな紙が四方からトルネード式に折りたたまれて冊子に収まっているようだ。届いたのは『Arts and Media/Volume 12』(2022 編集:大阪大学大学院文学研究科文化動態論専攻アート・メディア論研究室、AD+D+DTP:松本久木) 。さっそく花びらのページを探すと、前後見返しの次の見開きが左右幅をやや控えた観音開きになっていて、それを開くと、折りたたまれた紙端が中央に十字を描いていた。ここから四方に角をめくって、その紙端を動きのままに軽く素直にひっぱると、くるりと開いて大きな1枚の正方形が現れた。おおー。
用紙は40センチ四方くらいか。中央に円形の図版、周りに放射状に配されたテキスト群が、濃茶の紙に金(金風?)1色で細かに刷られている。裏面もしかり。全面に、4×4=16の升目を軸にした縦横斜めの折り線。これ、あれだ。山口信博さんの折形デザイン研究所の「Fold IN Fold OUT」と構造は同じ。こつをつかめば、すうっと折れるやつ。「Fold IN Fold OUT」は2002年の「北園克衛生誕100年記念イベント」のチラシにも使われていて、DMとして用意するのに難儀したのだった。このとき私はこれを勝手に「〈の〉折り」とか「のの字折り」と呼んで、中央の正方形を囲んで「のの字」を描くように紙をたたんでいくのだよと、体に叩き込んだのだった。
『Arts and Media/Volume 12』の花びらのような折りは、「Fold IN Fold OUT」の外側をもう一巡折るという感じで、「トルネード折り」とここでは勝手に呼ばせていただく。のの字折りの感覚が戻ったところで、トルネード折りの折り戻しを試みる。折れ線以外のよけいなシワを作らぬよう注意して、さっき開いたのと逆の動きで折っていく。並製の硬めの表紙が途中でバタンと戻って手元がくるう。背の近くに折れ線が入れてあるので、ここはもう思い切って開ききってしまう。トルネード折りする紙自体はとても折りやすい。折り山の向きと折りぐせに素直に従っていきさえすればうまくいくのに、やっぱり余計な力が入る。それでも不意に、すうっと収まる。このしらっとした何気なさ。気持ちいい。折りの途中で現れる幾種類ものヒラ面も、そのつど左右前後の図柄のコンビネーションが美しい。
別の紙で同じように折ってみる。まずは4×4の升目をつけて、山、谷の折り目をくっきりつける。中央の小さい四角(用紙に対して大きさ1/8、傾き45度)を底辺にして、四方から中央へ、トルネード、トルネード……と紙を寄せるとたちまちすうっと収まった。気持ちいい。この折りの構造は三谷純さんのウェブサイト「折り紙研究ノート」でも「ねじり折り」として紹介されてきた。改めて見ると、〈「ねじり折り」 紙をひねって折り畳む構造をしていて、完全に折りたたむと平坦になります。紙が互いに重なり合ってループします(重なりにサイクルがあります)。中央部分は正方形である必要はありません。(中略)畳紙(タトウ)や「花紋折り」などに見られ、またTessellationと呼ばれる分野の折りにもよく登場します〉とある。確かに包み袋などでも見てきたが、印刷物の舞台として、しかも冊子のページになって機能している実物を、私は『Arts and Media/Volume 12』で初めて見た。
トルネード折りはわかった。しかしこれを冊子の中でページとして成り立たせるために、どんな造作がなされているのだろう。観音開きのページにトルネード折りした紙が貼り付けてあるわけだが、すきまにそっと指を入れてさぐると、接着はごく一部、中央の横ひと筋に入れてある。そのひと筋も、微妙な長さ。快適に開くために、なにかこう、計算すれば数値的にカンタンに出せたりするのだろうか。こちらはその絶妙に関心するばかり。そしてこの折りと貼り、まさか機械ではできないだろう。奥付には、「デザイン・組版:松本久木、印刷・製本:株式会社ケーエスアイ、印刷加工・太成二葉産業株式会社、アセンブリ・ツモロウ」とある。どんなふうに試作が繰り返されて、そして完成したのだろう。この間、そっと扱ってきたつもりだが、気づくとトルネード折りのページは結構よれてしまった。でもきっと大丈夫。折り戻した本を棚にさしておけば自然とシワは抜けていく。いいなあ、シワが抜けるって。
本の機械折りといえば、国産の「オリスター」という印象的な名前の機械があった。今もあるのだろうか。説明書を取り寄せたことがあるのだが、しくみや構造を手書きのイラストも添えて詳しく解説してあり、とてもわかりやすかった。中に折り方のバリエーションを示したページがあって、ここだけコピーしてまだ手元にとってある。大きな用紙を機械に入れて、バタンバタンと縦横からハネを倒して折っていくのだが、いかに多様に折れるかが図示してある。「二つ折」「巻三つ折」から始まって「二つ折平行外々四つ直角二つ折」とか「8頁直角巻四つ折」とか全67種。実際どれほど必要とされたのかはわからないけれど、バリエーションの多さというか多すぎさは、今見ても感嘆を超えた笑いを誘う。たくさんの図を見ながら、ここをノドに、ここを断裁してと、考えるだけで楽しい。