製本かい摘みましては(181)

四釜裕子

この春、小学1年生になる親戚の子がランドセルを見せてくれた。落ち着いた水色だったのでちょっと驚いて、「薄紫と桃色が好きなんじゃなかったっけ?」と聞いたらば、「そう。だからランドセルは水色にしたの」。人間6年余にしてコーディネートを語るのか……。なにかと桃色のものを土産にしていた自分の傲慢を恥じる。さてこちらからの入学祝いは、小学館の「きみの名前がひける国語辞典」にした。小学校低学年向けの『小学館はじめての国語辞典』をベースにして、約18000ある収録語の中に、見出し語として子どもの下の名前を入れたものを特別注文で作ってくれるというものだ。奥付にも、「2023年○月○日 ○○さん版発行」と名前が入る。

小学館のサイトに「きみの名前がひける国語辞典」の誕生秘話がある。辞書に子どもの名前を入れる企画自体は、2013年に『ドラえもん はじめての国語辞典』の発売1周年記念の販促キャンペーンのプレゼントとして始まり、2015年からは小学館の社員の子どもたち向けに制作されてきたという。2021年に『小学館はじめての国語辞典』が発売されると、ランドセルメーカーとのコラボ企画で「きみの名前がひける国語辞典」を販売。そして2023年、単品での一般販売を開始すると予定していた100冊が早々に売り切れとなり、私が注文したのは第二弾の100冊の募集枠のようだった。その子の下の名前と読み方と、40字弱にまとめた紹介文(語釈)を用意して、3月中旬に申し込む。第二弾枠の完成は夏以降になるらしい。

注文者が用意した名前と語釈を、1冊ずつ、それぞれ的確な場所に入れてオンデマンド印刷するわけだが、校正・校閲はどんなふうにするのだろう。3行なりなんなりを追加したからといって、ただそれだけを見直しておしまいなわけはなく、だからといってその前後をどの程度見るものなのか、どんな手間がかかるのだろうと思っていたら、同サイトに、〈他のページに影響が出ないように、このページ内だけの調整で完結させなければならない。他の収録語の行数を調整するなど、言葉の意味が変わらないように細心の注意を払いながら編集していく〉とあった。なるほど――。印刷・製本のしくみは、小学館の辞書編集室と大日本印刷が10年をかけて共同開発したそうだ。

愛読者はがきによるアンケートを分析したところ、自分の名前を調べる子どもが結構いると気づいたことが、企画のきっかけの一つになったとも記してあった。確かに私もその昔、「釜」とか「裕」とか国語辞典で引いたことがあったよなぁ。製本を習って数年した頃に、広辞苑を「あ」とか「ま行」などでいくつもバラして製本し直して、「きょうは【あ】の日」とか「きょうは【ま行】の日」とかいって持ち歩き、広辞苑にない言葉を採取して書き足す遊びをしていたことがあったけれども、【ま行】本がまだ手元にあるので見てみたら「マイブーム」「マヴォ」「マカヴェイエフ」「まきちゃん」「まったくもー」「マハリクマハリタヤンバラヤンヤンヤン」「マデラ酒」「マニピュレーター」とかあって、友人をはじめとして人の名前が結構あるのに笑った。

さて入学祝いの「きみの名前がひける国語辞典」、表紙の色は10種類から選べるのであった。薄紫色も水色も桃色もあって迷ったけれど、結局薄紫にした。彼女はいつ、その中に自分の名前を見つけるだろう。笑うかな。びっくりするかな。そうでもなかったりなんかして。入学おめでとう。いらなくなったら私にちょうだい。