製本かい摘みましては(183)

四釜裕子

大きなものから同寸でたくさん切り出すのは難しい。いつまでたっても慣れないなと思っているうちに老眼になってしまった。ここから先はできない理由をもっぱら老眼のせいにするだろう。でもそれではこの目に不義理だなと思って、苦手の理由がそれではないことをここで一度はっきりしておこう。製本ワークショプの材料で表紙用のクロスや革を揃えるとき、費用をおさえるためにも大きなものをまとめて買うが、一人分ずつ切り分けて用意するのが難儀で、今年もその時期が来て憂鬱になっていた。もちろん測って切るのだがときどき足りなくなってしまって、それでは最初に渡す材料にならないので困る。何もかも準備された材料と道具で全員が見事に仕上げるたぐいの授業ではないから、材料が足りないとか失敗すると勝手に工夫できておもしろいわよとささやくのは次の段階なのだ。

ところが今年、朗報到来。よく行く浅草橋の革屋の店頭に、手頃な大きさに切り揃えられた端切れが山になっているという。のぞいてみたらば、A6サイズでいろいろな色柄素材をたくさんほしい私にはうってつけだった。厚さもちょうどいいものが多いし、値段はどれも同じで11枚以上はさらに割引になる。この店は常時端切れが置いてあるけれど、いわば「純端切れ」で大きさも値段もバラバラなのだ。いつもサイズ確認のためのA6サイズに切ったボール紙を持参して、縦に横に当てながら、枚数と値段を足し算しつつ選びに選んで買っていたが今回は違う。箱の中からどんどん選んで足し算も簡単。なんということでしょう! 見るからに「ランドセルの端切れ」がかなりあって、ちょっと硬いかなと思ったけれどもそれも少し買ってみた。袖山みたいなあのかたち、ランドセルのどの部分の切り残しだろう。”そちら側”を、みんな元気に背負っているかな。

お店の人に「このサイズの端切れは定番化の予定ありですか?」と聞いたら、「出ている限りになると思います」。ちょっと考えて1週間後にまた行ったら、相当減っていた。皆さんあれでどんなものを作るのだろう。私たちはこれを、「交差式ルリユール」の表紙に使う。A6サイズ程度の2枚の革をヨ型とロ型(正しくはヨの字の形でもロの字の形でもないが私が勝手にそう呼んでいる)にそれぞれ切って、まずはヨ型の一部を支持体として本文紙をかがる。終わったら、そこにロ型を両手の指が交差するように重ねて整える。これはイタリアのCarmencho Arreguiさんが考案した「Crossed Structure Bindig」で、のりを用いない製本法だ。もちろん表紙が革である必要はなく、大きさもデザインもアレンジもいろいろできる。世界中で愛されている開放的な方法だが、日本では「交差式”ルリユール”」と呼ばれているのがちょっとおもしろい。

革は揃った。表紙クロスはキハラのネット通販「Book Buddy」で大きいのをまとめて買って切り出した。紙は長らく渋谷の東急ハンズでカット済みのものから選んできたが、数年前から品揃えがぐっと減り、2022年にはカインズに買収されてハンズとなり、売り場も人もロゴも変わってついに足が向かなくなった。株式会社東急ハンズは1976年設立、1号店は藤沢だったのか。77年二子玉川店、78年渋谷店開店。お世話になった。本当に楽しませてもらった。それで今年はどうしようかなと思っていたが、自宅近くに紙の商社の山利さん(1953年創業)があって、界隈のものづくりマーケット「モノマチ」期間中には「A4サイズ紙詰め放題」が定番で、今年は3年ぶりに復活したので出かけたのだった。一生懸命詰めてこんなものかなと満足していると、係の人が「まだ入りますよ~」とコツを伝授してくれたりして、おかげで今年はこれでなんとかなるだろう。

長い紙を蛇腹に折って作る「クラウンブック」や「ブリザードブック」(どちらもHedi Kyleさん考案)もいつか取り上げたいと思ってきたけれど、やはり直角をとった細長い紙を人数分用意する必要があるので実現していない。でももしかしたらちょうどいい感じの長い紙が商品としてあったりして……とふと思い、ネットで軽く検索したら「長尺用紙」なるものがヒットした。店内広告やPOPに多く用いられているようで、ファックス用感熱紙のようにロール状のものも売っている。そうか、こういうものも自社あるいは自宅でやる人が増えているのか。長尺用紙メーカーの1つである中川製作所のサイトには、DIYならぬ「P.I.Y.通信」というのがあり、そこに使い方などいろいろ出ていた。「TOPPANエッジの長尺印刷」なるサイトもあった。〈A Long As Possible〉、巻物などの美術複製品や、展示用のパノラマ印刷、年史などが紹介されている。仕上げは、巻物・蛇腹・1枚絵から選べるようだ。ここまできて、思い出したことがある。

私は「gui」という同人誌の同人なのだが、坂本龍一さんの作品に「Gui」という曲がある。佐古忠彦監督の『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』(2019)に書き下ろしたテーマ曲で、私たちのguiとはなんら関係はない。昨年、その楽譜が坂本さんの公式サイトで販売されるようになり、購入していた。ピアノは弾けないけど楽譜を見てもいいだろう。「Gui」の譜面はA4判見開きで完結しているが、長いものは蛇腹仕様になるようだ。サイトにはこう書いてある。〈プリント・オン・デマンド版は、環境に配慮してFSC認証紙を採用、注文ごとに蛇腹印刷で丁寧に仕上げ、長嶋りかこデザインのスコアケースに入れて手元に届けられる〉。この「蛇腹印刷」が気になっていた。あとで蛇腹に仕上げるならば、そうは言わないだろうと思ったからだ。もしやこれは、いわゆる長尺用紙+長尺印刷の一種? 未確認です。

6月の末、gui同人の國峰照子さんのお宅に「Gui」の楽譜を持って行き、2台のグランドピアノが並ぶ部屋で國峰さんのお嬢さんの響子さんに弾いていただいてみんなで聴いた。ジンとしてシンとしたのち、タイトルの意味についてひとしきり妄想談義が始まった。佐古監督の前作『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(2017)にも坂本さんは曲を書いていて、そのタイトルは監督の名前の「佐古(さこ)」由来で「Sacco」としたそうだから、「Gui」も意味というより響きによるものではないかと私は思い、わりと本気で、タイトルの「男」から「Guy」→「Gui」説を唱えたが超不評だった。せっかくみんないい気持ちで妄想しているのに、無粋だったと反省した。