製本、かい摘まみましては(31)

四釜裕子

「水牛」をご覧のみなさまには、7月7日の青空文庫10周年記念式典の場で涼やかに旗揚げされた「青空文庫製本部」のことは、周知のことと思う。その旗揚げの、「は・た・あ」あたりのある一日、準備会でお手伝いしながら、初めて青空文庫にアクセスしたときのことや、それをプリントしては製本していたころを思い出していた。

日販を中心としたオンデマンド出版会社ブッキングが立ち上がり、青空文庫のテキストを「ぼくらが書籍化する」とリリースしたのは、1999年だったろうか。製本はどうするの?と、とっさにメールで問い合わせた。「時代を超えて生き続ける名著の息吹を、手触りの良い紙の本としてお届け出来れば」とあったことに期待してしまったのは、オンデマンド印刷というものを私があまりにも知らなかったからだろう。まもなく、青空文庫のテキストをプリントして製本した『十八時の音楽浴』を手にブッキングの事務所に遊びに行き、そこではじめて、オンデマンド印刷のしくみやその仕上がりを目にすることになる。

コピー用紙をただ束ねただけのようなこのカタチのどこが「手触りの良い紙の本」なの?とこちらが言えば、『十八時の音楽浴』を見て、こんな製本が手作りでできるんですか、と返される。このたびの事業はバリアフリーの新出版「ユニバーサルBOOK」なのだと言うならば、今ここでおこっている製本の概念のバリアもフリーにしたいね、など雑談するうちに、「東京国際ブックフェア」の同社のブースで、ユニバーサルブック構想の一例として、糸かがりハードカバー仕立ての『十八時の音楽浴』を展示することになったのだった。

青空文庫の、宣言やしくみの広々とした気持ちよさに、だれもが焦がれる。ブッキングのスタッフもそうだったのだと思う。私も焦がれた。軽々しく、「テキストがオープンになっていく」なんて言って、それをどんなふうに読んでいこうか、モニターでいい、縦書きなんて不要、電子本はどうだ、やっぱりプリント、しかも糸かがり製本だ、なんてはりきって、楽しかった。青空文庫があったから、具体的なカタチとして試し、考えることができたのだと思っている。

そんなわけで久しぶりの「青空文庫本」作り、特に今回はブアツイ一冊を仰せつかって製本したので、うまくいくかと緊張もした。これまでいかに短編ばっかり選んで製本していたかが、よーくわかりました。