むもーままめ(1)オットキョウカの巻

工藤あかね

このたび寄稿のお誘いをいただきました。内容も文字数も自由だというお言葉に甘えて、心に移りゆく、よしなしごとを書いてみます。

よしなしごと。
そう言ってしまえば身も蓋もありませんが、気ままに浮遊しているわたしの無意識を、パシャっとカメラに収めるみたいにして、時々保存してみるのも悪くないかな、と思いました。

今回は、コロナ以前の日常を、気が向いた時にだけ、狂歌みたいにして、書き綴ったものを蔵出ししてみます。

1 2019/1/17
ちもゆるぐ つまのいびきは鳴りやまず うらみはぐくむ 夜半の月かな

(大意:大地も揺るがすような夫のいびきは鳴り止まない。寝られず月を見ていたら、ますます腹が立ってきた。)

わが夫のいびきは本当に轟音で、
耳栓してヘッドフォンをかぶっても、
別の部屋に逃げても、余裕で聞こえてきます。

結婚当初は、牛がモーモー鳴いている牧場に置き去りにされたり、
自動車整備工場でバイクをふかす音にさらされる夢をみたことも。

不思議なことに、爆音でいびきをかいているのに、
本人には自覚がないようです。

2 2019/1/18
かこひばら わが身はかりてしこふむも くすしとがめて しぼむつまかな

(大意:囲いのようにお腹が張ったので、体重を測り慌てて四股を踏む運動をしてみたが、時すでに遅し。医師に体重を減らすよう言われ、夫はしょんぼりしていた。)

年末年始は、体重を減らしたい人とっては魔の季節。
なんだか体が重いかも…と感じて体重計に乗ったところ、
人生最重記録を叩き出してしまったり。
ちょっと運動したくらいでは、筋肉に変わってはくれないようです。
それと、健康管理については私がなんだかんだ言っても聞く耳を持ちませんが、
お医者様の言葉だと素直に聞いてくれます。
感謝。

3 2020/1/16
けんだまの のするさするの快の音に 腿いたむとも やめぬつまかな

(大意:けん玉が皿に載ったり刺さったりするのが気持ちよくて、 太ももが筋肉痛になっても夫は練習を続けている。)

新年、とあるデパートに行ったところ、
けん玉の実演販売コーナーに遭遇しました。
私はスルーしようと思ったのですが、
夫はどんどん技を繰り出すお兄さんにロックオン。
ついに夫はけん玉を手にとって試してみたのですが、
ちっともうまくいきません。

それを見たお兄さんがすっと近づき、夫に囁きました。
「これまでの人生で…刺したことありますか?」
「いえ…ないです…。」と答える夫に、お兄さんは言います。
「大丈夫です、必ず刺さります!!」

けん玉愛にあふれ、しかも教え上手なお兄さんの手ほどきを受けたところ、
夫は短時間でかなり上達しました。
すっかり気を良くして、けん玉をお買い上げ。
それからしばらくは、朝食前にとめけんを成功させないと、
その日のテンションがあがらない、とまで言っていました。

今でも、けん玉は目につくところに置いてあって、
時々カチャンカチャンと、心地よい木の音を響かせています。

4 2020/1/22
きょくのほか 心のおそしつまなれど 思ひゆるさん とつくにのさけ

(大意:音楽以外のことは、からきし気が利かない夫だが、ワイン頼んでおいてくれたから許してあげようかな。)

わが夫は気が利きません。それもちょっとどころか、相当です。
なんといっても私が高熱を出して寝込んだ時、
「よるごはんはどうなるの」と3歳児のような真顔で言った男です。

こればかりは、私もいまだに根に持っていますが、
夫はその思考で長年きてしまった人なので、
いまから矯正するのは、あきらめるしかありません。

それが、音楽のことになると別人なのです。
わたしがちょっと「〇〇版のヴォーカルスコア、おかしい気がする」などと呟くと、
あっという間にスコアから該当箇所を探し出したり、
いつのまにか海外に、必要な楽譜や資料を注文しておいてくれたりするのです。

ある時、ベートーヴェンの第九の自筆ファクシミリが
家にドーンと現れました。
ここで聞いてはいけないのは値段なのですけれど、
やはりそれなりの…いえ、かなりの…お値段でした。気絶。

その後、夫はわたしへの贈り物だと言いながら「
トリスタンとイゾルデ」自筆スコア・ファクシミリも入手し、
ページをめくってはニヤニヤしていましたっけ。

そんな夫ですが、思いもよらぬ時にワインなぞ注文してくれていたりするので、
そのたびに「よるごはんはどうなるの」発言は、
お酒に免じて許してやろうと、
決意を新たにするわたしなのでした。

今回は、夫に関するネタばかりになってしまいましたが、
このあとはコロナに関する歌が増えてきます。
もしよかったら、またお付き合いください。