異例のコースをたどった台風11号が過ぎてゆき、夏のしっぽが意外に長そうな気配の9月が始まりました。ラム酒をくぐらせた西瓜をたっぷりと食べおえて、次は葡萄だな、と思うちょうどそのような季節です。

「水牛のように」を2016年9月号に更新しました。
杉山洋一さんは毎年8月はたいてい日本にいるので、一度は会って呑んだり食べたりしながら話す機会をつくり、ついでに来られそうな水牛の執筆陣にも声をかけるのを楽しい恒例にしていました。が、今年はその時間がありませんでした。忙しすぎるのは今年かぎりにしてほしいものです。
「恥ずかしい」長谷部さんは新しく出る本のタイトルすら書いていませんが、1冊は『メモランダム』(河出書房新社 9/21)です。

夏の盛りに、はじめて夕食をともにした女性はいまや絶滅危惧種のヘビースモーカーでした。食事中にも席を立って、煙草を吸いに外に出ていくほど。雨上がりの帰り道で聞いたら、一日4箱くらい吸うとのことで、世の中の趨勢とは逆に、少しうらやましくなってしまいました。お酒も強くて、食後のマールはいっしょに飲みました。昔の映画を観ると、煙草とお酒はストーリーにもスクリーンにも魅力を添えるものだと感じることが多く、あの夜のひとときもそうした映画のなかのワン・シーンのようでもあったのでした。

それではまた。(八巻美恵)

梅雨が明けて東京にも夏がきました。ことしは、風がとおればエアコンなしで耐えられる程度の、久しぶりに夏らしい暑さの夏です。夕立というには早い午後でしたから、スコールと呼ぶほうがふさわしい雷をともなう激しい雨がさきほど降って、空気が洗われたような午後です。

「水牛のように」を2016年8月号に更新しました。
ベストセラーそのものに罪はないにしても、世の中のたくさんの人が読んだり聞いたりするものなら、別に私は読まなくて聞かなくてももいいように思えます。時間は限られているのですから、それならば少数の人に読まれ聞かれてているものを選びたい。
この水牛もそうですが、自分が編集をしたり公開しているものもは、あまり多数の人に届かなくてもいいとどこかで考えています。必要な人がいれば、きっと探しだして読んでくれるはず。浴びるように降ってくる情報は受けとる側にとってはあまり関係のないものばかりで、自分がほんとうに求めているものはほとんどないと実感します。編集の仕事の場合には、情報を出す側ですから、具体的な数字を早急に出すことをまず求められるのですが、努力はするにしてもそう単純にはいきません。これも多くの編集者の実感だと思います。小さなものが自由にたくさん存在している世界がいいなと思っているうちに、多数決という民主主義の決めごとにもおおきな疑問を感じるようになってしまったこのごろです。さて、どうするか。

それではまた!(八巻美恵)

インドあたりからの暑い湿った空気が流れ込んでいるのを身をもって感じる、アジアモンスーンの端っこの梅雨という季節、きょうのように蒸し暑い日を温気と呼ぶのだそうです。

「水牛のように」を2016年7月号に更新しました。
初登場の西荻ななさんは若い仕事仲間のひとりです。仕事で知り合ったけれど、女子の常として、話題は仕事のことだけに限らず、失恋という個人的なことまでひろがっていきます。折しも出版されたばかりの『分解する』(リディア・デイヴィス 岸本佐知子訳 作品社)のなかの表題作「分解する」を読んで、主人公(男性)のあがき方に笑ったばかりだったのが、個人的にはタイムリー。人の失恋についてのコメントとしてはあまり適切とは言えないかもしれませんが、西荻さんにもおすすめしたい一冊です。

きょう7月1日は、小豆島のオンラインマガジン「その船にのって」の出航・旅立ちの日でもあります。「日々刻々とワクワクする何かが増殖している小豆島の「今」を伝えるメディアとして小豆島在住の仲間たちが集まって立ち上がったプロジェクトです。これまで取り上げられることのなかった小豆島の「日常」にフォーカスを当て、島民たちが自らの言葉で綴り発信をしていきます。島民による連載の他にも、世界からの寄稿、電子書籍の出版など、風通しのいいマガジンをお届けします。」ということなので、ちょっとその船にのってみるのは楽しそうです。

先月は小豆島よりもっともっと遠くの島に暮らす人に会ったり、北へ引っ越した友人に会いにいったりしたので、いつもより空間というものを意識して、しばらくぼっとしていました。ぼっと、ではなく、ボケっと、と言いましょうか。『翻訳できない世界のことば』によれば、ボケっと、とは「なにも特別なことを考えず、ぼんやりと遠くを見ているときの気持ち」です。

それではまた!(八巻美恵)

気象の世界では6月から8月が夏ととらえられているので、そうすると今日は夏の始まりの日といえます。でも今日の現実の気圧配置は西高東低の冬型で、北海道では寒気の影響を受けて、夜には雪が降るところもあるとの予報が出ています。

「水牛のように」を2016年6月号に更新しました。

今月はいろんなお知らせを日時の順に。

●50人のためのコンサート8
6月2日(木)19:00 MUSICASA
[小田急線・東京メトロ千代田線/代々木上原駅東口2分 tel. 03-5454-0054]
予約不要 当日 ¥4,000
高橋悠治(piano)

Henry Purcell パーセル (1659-1695)
 Ground on Gamut 音階のグラウンド Z.645
 Ground グラウンド ニ短調 Z.D222
 A New Irsh Tune (Lilliburlero) リリーバレロ Z.646
 Sefauchi's Farewell セファウチの別れ Z.656
 Round O (from Abdelazer) ロンド(アブデラザール) Z.T684
William Blake・高橋悠治 
 ブレイクの虎 Tiger! Tyger! burning bright (2015)
Matthew Locke (1621-1677) マシュー・ロック
 Suite No. 2 in g Almain / Saraband / Virago / Round
高橋悠治 
 吹き寄せ assemblage (新作初演)
Jan Pieterszoon Sweelinck (1562-1621) スウェーリンク
 Paduana Lachrimae (colorirt) SwWV328 涙のパヴァーヌ
 Mein Junges Leben hat ein End SwWV32 青春は終わった


●「憲法このままでいいね!」の集い
6月11日(土) 18:00〜20:00(17:30開場)
明治大学紫紺館
   千代田区神田小川町3-22-14(JR御茶ノ水駅より徒歩5分)
参加費 500円(『あたらしい憲法のはなし』本代を含む)高校生以下は無料 カンパ歓迎
主催「憲法肯定デモってどうだろう」の会
サポーター エコロジーショップGAIA アース・マーケット

なぜ憲法肯定デモなんて言い出したのか 小泉英政
(水牛のように「憲法『肯定』デモってどうだろう
インターネット上でもデモをしてみよう!
子供のころの戦争体験を聞く
『あたらしい憲法のはなし』朗読
意見交換

会場を手作りプラカードで飾りたいと思っています。画用紙などに、憲法を肯定する思いを言葉や絵に描いて、くるくると巻いて持ってきていただけるとうれしいです。当日、画板とマジック、クレヨンなど用意しますので、会場でも描くことができますよ。

難民の日に「シリア・イラク・福島」を考える
JIM-NETでは、イラクとヨルダンで様々な活動を続けており、特にシリア難民の負傷者・障害者の支援を行っている。障害者の「害」は、当人たちに害があるのではなく、社会に害があるといわれている。
害=戦争と原発事故。
この「害」をどのように止めていくのか、いま、私達に何ができるのか。
イラク現地の最新の情報とともに具体的に活動を続けているゲストを迎え、パネルディスカッションを開催します。

2016年6月19日(日)14:00(17:30終了予定)
立教大学池袋キャンパス(http://www.rikkyo.ac.jp/access/ikebukuro/direction/地図) 12号館地下 第1〜3会議室
JR各線・東武東上線・西武池袋線・東京メトロ丸ノ内線/有楽町線/副都心線 池袋駅(西口)より徒歩約7分
資料代:1000円
・ 定員100名、事前にご予約をお願いいたします(先着順)。
・ JIM-NETサポーター、立教大学関係者は無料です。
プログラム:
・パネルディスカッション:
  安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)
  松崎康弘さん(NPO法人いわきオリーブプロジェクト理事長)
  鎌田實(JIM-NET代表理事)
  佐藤真紀(JIM-NET事務局長)
・JIM-NET活動報告:
  榎本彰子(イラク事業担当)
  内海旬子(ヨルダン事業担当)

秩父前衛派個展『武甲風葬』笹久保伸 with 青木大輔
2016年6月25日〜7月3日
KEN(三軒茶屋)

破壊され続ける武甲山、この神の山を中心にした土地、秩父を自らの根拠地とする芸術運動体「秩父前衛派」。彼らの表現領域は音楽だけにとどまらない。今回はこの運動体を主宰する笹久保伸の写真、版画、ドローイングといった美術作品を展示、その空間で新作映画「武甲風葬」(8mmフィルム作品)も上映。その他、建築家の原広司をはじめ、多彩なゲストを迎えてのトーク。そしてもう一人の秩父前衛派、青木大輔のパフォーマンス、その青木(サンポーニャ)と笹久保(ギター)によるコンサート、さらには秩父出身者であり、世界中を飛び回り演奏活動を続けているKOJI ASANOのライヴ&トークも行われる。『道行く人よ、道はない...』秩父前衛派とはだれか? 彼らの活動の全貌を明らかにする決定的個展「武甲風葬」

タイムスケジュール、会場へのアクセスなどは上記のサイトでご確認ください。

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どこかの会場でお会いできるといいですね。
それではまた!(八巻美恵)

五月のはじまりにふさわしい美しく快適な日。暖房も冷房もいらない季節はやはり気持のいいものですね。外へと向かう気持をおちつけて、水牛の更新にはげみます。

「水牛のように」を2016年5月号に更新しました。
「憲法「肯定デモ」ってどうだろう」のアイディアは憲法9条の非暴力の精神によって導かれたもののようです。「幾百万の犠牲者の魂は、憲法によって、憲法を守っていくことによって救済されるのではないか。」という指摘は重要だと思います。憲法肯定デモについては相談会がもたれることになり、やがてデモが実現するようです。小泉さんには引き続き報告してもらいます。
昨年、電子化の編集を担当した池澤夏樹『憲法なんて知らないよ』もお勧めします。憲法はもともと英語で書かれたのですが、それを池澤さんがふつうの(?)日本語に新しく訳したものです。巻末にはその日本国憲法の英文と和文とが載っていて、読み比べられるのもありがたい。リンクしたのは電子版ですが、集英社文庫もまだ手に入ると思います。

予約は不要ですが、6月2日(木)の「高橋悠治50人のためのコンサート8」をお忘れなく。午後7時開演、代々木上原のムジカーザで。

それではまた!(八巻美恵)

楽しい嘘をつかないままに終わりそうなエイプリル・フール。残念無念。

「水牛のように」
2016年4月号に更新しました。
「憲法「肯定デモ」ってどうだろう」は、小泉循環農場の宅配の野菜の箱に入っている「循環だより」の最新版です。SEALDSの若い人たちのデモはこういうふうにも届いているのです。世界は反対したいことに満ちていて、さらにそれが増幅しているように感じてはいますが、いまあるたくさんのいいことは当たり前に受けとめているだけで、あまり考える機会がありませんね。

先月少しだけお知らせした「高橋悠治50人のためのコンサート8」を6月2日におこないます。詳細はトップページのお知らせからどうぞ。50人という小さな規模ということもあり、予約はなし、にしました。当日ふらりとおいでください。主催する側も聴きにきてくださるかたもできるだけ管理から自由でありたいと思います。

それではまた!(八巻美恵)

三月になりたてのきょう、「三月」と口にだして言ってみると春という感じがしますが、まだまだ春は名のみか。5年前の11日は寒い東京でした。

「水牛のように」を2016年3月号に更新しました。
長谷部千彩さんの原稿を待っていてくださった方、今月から再開ですよ!

調べることがあってたまたま読んでいた『大宅壮一のカメラ万年筆』のなかに、大宅のこんな発言を見つけました。
「いつか小豆島にいったとき、町村をみんな合併して小豆島ぜんたいを市にしようという会議をやっていた。ぼくはそこで、いまさら市にするより、小豆島独立運動をはじめろといって、一度独立計画について弁じたんだ。(笑)あそこは瀬戸内海の銀座通りだから、旅客機なんか上空を通るとき、あれなるは小豆島という独立国でありまして......(笑)といったら、観光客も来るし、外国品は無関税で売ることにしたら......。」「「二十四の瞳」でえらい繁盛したが、独立国にしたらもっと繁盛するよ」
小豆島に着眼するところが独特ですが、たしかにあそこにはそういう芽のようなものがあるのかもしれません。もしも小豆島が小さな独立国になったら、あの島ひとつだけで終わるわけはなく、日本も案外おもしろい国になるだろうと思うのでした。

名のみとはいえ、春の到来をそこかしこの小さなところに感じるようになってきましたので、高橋悠治の50人のコンサートも春のうちに実現する予定です! 待っていてください。

それではまた!(八巻美恵)

この冬は週末のお天気がよくないことが多い。晴れて乾燥しているのが東京の冬ですが、曇っている日が案外多く、朝から夕方のようで、そんな日はわたしもぼんやり、みんなもぼんやりしているように見えます。

「水牛のように」を2016年2月号に更新しました。
仙台から雪のたよりがあるのはまあ当然のこととして、今年は暑冬のはずの沖縄にも雪ふる不思議な年となりました。タイでもバンコクは15度くらいになったようですから北のほうはもっと低かったかもしれません。
島崎藤村の随想「雪の障子」は青空文庫で読めます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000158/card55958.html

斎藤晴彦さんが日本語でうたった「冬の旅」の最初のツアーは北海道でした。2005年の初夏に録音をし、そのCDを持って冬の北海道をまわったのです。冬というなら2月なんかどうですか、と提案したところ、北海道の人たちは反対しました。年が明けると雪が深くなり、それによっては旅行は危ういこともある。だから、年があける前にしよう、そして道内の移動は飛行機や車ではなく鉄路で、と教えてくれて、少しゆとりのあるスケジュールを組んでくれたのです。旅の間にはもちろん雪の日もあったけれど、予定どおりに終えて帰って来られたのは彼らのアドヴァイスがあったからだと思います。

「冬の旅」といえば、今年の高橋悠治+波多野睦美のコンサートのチラシには16歳のシューベルトの肖像画(デッサン?)が載せられています。見なれたシューベルトとちょっと違って、若い頃(といっても彼は31歳までしか生きなかったわけですが)はこんなにハンサムだったのかと軽くおどろきました。しかし漏れ聞くところによると、あれはやはりシューベルトではなく、シューベルトの友人サークル「シューベルティアーデ」の集まりにいた医者カール・ヨーゼフ・マリーア・ハルトマンなのだそうです。「シューベルティアーデ」のメンバーだったレオポルト・クーペルヴィーザー(1796〜1862)が描いた集まりの水彩画があり、ピアノを弾くシューベルトの向かいに座っているのがカール・ヨーゼフ・マリーア・ハルトマンでした。肖像画にはシューベルトの異母弟による「16歳のシューベルト」という裏書があるためそのような扱いをされてきたのですが、いまは信ぴょう性に欠けると言われているのだそうです。

辺見庸大阪講演会「怒りと絶望は、どのように表現するべきか「戦争の時代」のたちいふるまいについて」のお知らせ。
4月3日(日)大阪市立阿倍野区民センターで13時開演。大人1500円 学生1000円。
申し込みは 2016.4.3@hemmiyo-osaka/info
詳細は特設サイトで。 http://hemmiyo-osaka.info

「水牛のように」に「島便り」を連載していた平野公子さんと島民のみなさんによる『おいでよ、小豆島』が完成、きちんとした小豆島案内になっていて、でもそれだけではない愉快な一冊です。読み終えると、移住したくなっているかも。

それではまた!(八巻美恵)

明けましておめでとうございます。
きのうと変わらないきょうなのに、この一言を書くときは、無心に帰って世界の平和を願っています。

「水牛のように」を2016年1月号に更新しました。
ひさしぶりにくぼたのぞみさんの詩をお届けします。夢のような雪を、わたしもまた東京の暖かな冬にいて待っている。
「交互にやってくる暑さと寒さのせいで」沖縄は暖冬ではなく、暑冬だと知り、にわかに郷愁を覚えてしまいます。沖縄本島の南の先の海に、あるいは鹿児島との間に横たわるどこかの島へ、行きたい気持ちがふつふつと。。。
「抽斗を開けると」黄色いボタンの詩を読んで、先日見た映画「真珠のボタン」を思い出しました。ボタンは記憶をとどめ、だから捨てられないのだと思います。
「雑煮のしたく」父が仙台の人だったので、家では大晦日の夜におせちまでだし並べて、食べていました。この話をすると、大晦日には年越しそばを食べるくらいで、いくらなんでもおせちは元旦でしょう、あなたの家だけ勘違いしているのではないか、といろんな人に言われ続けてきましたが、「年取りの膳」という伝統(?)はちゃんとあるのでした。
「長明さん、啄木さん」「方丈記と「食うべき詩」とを一つにしちゃいました。ごめん。」ということですが、こうした試みはおもしろいし、もっとあってもいいと思います。安西冬衛、梅崎春生、江戸川乱歩、大坪砂男、河井酔茗、蔵原伸二郎、式場隆三郎、高見順、谷崎潤一郎、中勘助、森下雨村、山川方夫、米川正夫という作家たちが今日からパブリック・ドメインとなり、青空文庫で作品が公開されていきます。作品は読まれ使われることで生き延びていくことを忘れないようにしましょう。方丈記も「食べる詩」も青空文庫で公開されていますから、ぜひ読みにいってください。

12月31日が出産予定日だった若い友人のところに、30日に無事に女の子がやってきました。ことし最初に受けとったうれしい知らせです。写真ではじめて見る、まあるい顔したちいさな人は、この世界のことはすべてわかってるという顔をして眠っています。ほんとに人生の先輩みたいだな。

それでは、今年も水牛をどうぞよろしくお願いいたします。(八巻美恵)