『砂漠の教室線――イスラエル通信』 藤本和子

目次    


砂漠の教室 I

砂漠の教室 II

イスラエル・スケッチI
 ベドウィンの胡瓜畑
 銀行で
 雨の兵士
 
スバル
 乗り合いタクシーの中で
 鋼鉄《はがね》の思想


ヨセフの娘たち

イスラエル・スケッチII
 影の住む部屋
 悪夢のシュニツェル
 オリエントの舌

   
――言語としての料理
 オリエントの舌

   
――ハイファの台所
 あかつきのハデラ病院
 知らない指
 おれさまのバス
 建設班長
 山岳の村


なぜヘブライ語だったのか

    イスラエル・スケッチI

 スバル

 イスラエルである日レンタ・カーして、運転開始と同時にラジオのスイッチを入れたら、
 
  ああー あなたの未来は あたしとおなじ
 
 ああー あなたの未来は あたしとおなじ だってさ!
 レンタカーで借りた車がスバルだからだよ。放送局は
 ――地中海のどこかからおとどけする、ヴォイス・オブ・ピース!
というアンダーグラウンド放送局で。
そういうわけで、まっ青な地中海を右手に見て、岩崎ひろみちゃんの声を聞きつつスバルを飛ばしてさ。
 でも途中でずいぶん多くの戦車を見た。トラックに載《つ》んであってね。十六台くらい見た。朝のニュースでは、シリアがその軍隊を動かした、というようなことが伝えられていたりして――。
 あるべつのとき、ハイファの自分の台所でアラブ風のサラダの野菜を細かく刻んでいたら、また――
「地中海のどこかから……」
と自称「平和の声《ヴォイス・オブ・ピース》がラジオの電波にまたがり名乗りをあげたかと思うと、こんどはなんと、フォー・リーブスの声が! コウフンしてしまう!


河出書房新社 1978年11月25日発行




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